変ドラ・ページ~なんだ、こりゃ?~

ドラえもんをはじめとする藤子・F・不二雄作品の少し変な魅力をたっぷりとお届けします。

【帰ってきた変ドラ】~12巻すべて見せます!~のびドラのガチンコぼけ合戦開幕『よかん虫』

time 2017/03/17

【帰ってきた変ドラ】~12巻すべて見せます!~のびドラのガチンコぼけ合戦開幕『よかん虫』

~ALL ABOUT 12~

変ドラ第12回、その1

「よかん虫」

初出~小学五年生1976年7月号~

 

30年も前から連載が始まり、これほど長期間に渡って単行本が発行されていると、かなりの世代に渡ってそれぞれの思い入れがあると思います。

筆者とドラえもんの出会いは、小学一年生の時に机の上に置かれていたコロコロコミック創刊号です。

あの時の喜びは今でも忘れません。そして、そのあまりの面白さに、その後ずっとなぶり尽くすように毎号楽しんで読みました。

それから一年後、遂に小学2年生の時、てんとう虫コミックス版ドラえもんを1巻から16巻まで一気に購入してもらったのが絶頂期でした。なので、この16冊は文字通り他のドラえもんとは別格に思い入れが強いのです。

そして、以前にも書きましたが、その中でも特別やたらと読み込んでいた巻があります。

それが今回特集する12巻です。

 

↑これが今でも我が家に残っている12巻です。カバーはもちろん紛失、表紙は真っ二つ、裏表紙は消失。読み込みすぎてボロボロですが、中身はページ抜けもなく元気そのものです。

初版は昭和51年(1976年)12月25日となっています。こちらは昭和53年(1978年)12月30日。早くも20刷というあたりに、爆発的売れ行きを感じます。まあ、本当に恐ろしいのはてんとう虫コミックスのドラえもんは現役でそのまま刷り数を重ねていることですけどねw(今何刷りなのか検討もつきませんw)

当然ですが、名義は「藤子不二雄」で、作者紹介にもちゃんとお二人の名前が記載されています。

とまれ、この12巻。読んでいると、思い入れを抜きにしても傑作エピソードが多すぎるのです。なので、ここは

「ええい、選り好みするより全部取り上げてやれ」

というわけで、丸ごと一話ずつ取り上げてみたいと思います。

(※思い起こせばこの「12巻ぜんぶ見せます!」という企画そのものに無理がありましてw 案の定途中で頓挫してしまっていたわけですが、今回改めて12巻を読み返すとやはり面白すぎてw こりずにまた再開してみようと無謀にも決心した次第です)

 

先ずはちょっとフェイント気味にジャブとして

「よかん虫」

から始めます。

ドラえもんの道具の中には、何故か頭に乗っける道具が結構あります。一番有名な「タケコプター」からして頭にのせます(最初はお尻ですが)。

パパが笑わせてくれる「あらかじめアンテナ」もかなりのもんです。

参照

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス11巻(小学館)より引用

で、このよかん虫という道具も、いきなり頭の上に虫型ロボット(蚊?)をのっけた満面笑みののび太が行進する扉絵からして面白い。これまた意味不明に笑顔で追ってくるドラえもんと言う、よくよくみると笑いがこみ上げる。

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑躁病気味の二人ですが、ここでのポイントはやっぱりのび太の行進。すんごい勢いですが、股のホワイトが無いと危なく右手と右足が同時状態と言う、極めて衝撃度の強い事態に陥りそうで恐いです。子供の頃はそのホワイトに気付かずに、勝手に「ヤバすぎるぜのび太」と心底笑ってました。その方が面白かったのに。ちぇ。

で、話の本筋に入るわけですが、いきなりコレ

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑のび太、よくあることですが、部屋でいきなりコレで体育座りはいかがなモノかと。眼球黒目の所のまぶたが実にションボリです。

「いやなことでもあったの。」

と、珍しくのび太を気遣う(でも当然顔は白ドラ)ドラえもんに、

「いやなことはこれからおこるんだ。」

とうそぶくのび太。その理由がコレ

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑いわゆる「眼瞼痙攣」ですね。眼輪筋の発作性の痙攣ですが、あれが延々続くとかなり厳しい状態になります。とは言え、それをいきなり「いやなことがおこる前ぶれなんだ。」と極めてネガティブな思考回路で捉えるのび太が極端で笑える。いつもながら邪教教祖の素養充分。自分で信じ込んでますからね。タチ悪いですよ相変わらず。

それを見てドラえもん大呆れ(当たり前)

のび太は「虫のよかん」と言う言葉を持ち出すが、ドラえもんは「笑う門には福来たる」と言い返す。ここらあたりの応酬はF先生ならではです(それが爆発するのが例の『くろうみそ』)。

この時のドラえもんのポジティブ・シンキングはホントに素晴らしくて、ブラス思考をボクはこの話のコレで学びましたよ。

ところが、この話はそんな説教とは裏腹な強烈な展開を見せてくれて、

どんどん脱線していってのび太とドラがボケ倒す

 

と言うF先生特有の素晴らしいネタに成り代わる。

虫のよかん→虫→よかんが顕在化→あれこれ→勝った!

ってな発想ですね。

この話はボクの好きなのび&ドラが二人でボケまくると言う典型的な例で、その具体的なパターンがコレ

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑わはははは。いきなり曲解。

どういう事かというとですね、要するに二人が漫才よろしく掛け合いをしてくれるパターンです。それも読者を有る意味置いてけぼりにする様な感覚。なんか二人だけの特殊な空気を形成している豊穣な高レベルな笑いってんでしょうかね。

ドラえもんの笑いのパターンっていうのは、コントタイプと漫才タイプがあると思うんですよ。道具立てで笑わせるコントタイプと、こういうのび&ドラの掛け合いによる漫才タイプ。

ボクは断然後者が好きで、ここでの流れはこうです。

○いきなり「逆への字口」笑顔ののび太、後ろ腕組みで家から出てくる。
「なにかいいことありそうな気がしてさ。」
と、雑誌の運勢ぐらいでこの好転ぶり(充分ポジティブだっての)

○それを聞いてドラ、
 「そりゃけっこう!!」
と、(古風な)上機嫌。

○で、よかん虫登場。
「とまるとそのよかんがほんとのできごとになるんだ!」
と、もう既に段違いに間違った理屈をかますドラ。

○もう止まんないのび太ときたら、ランラン顔で
「ぼ、ぼく とってもいいことがおきそうなよかんがしているよ。」
 と、 虫に云う

○更に虫がとまって万歳するのび太
「さあ いいことがおきるぞ!」
と、云うや、
「どんないいことか、なるべくくわしく考えるんだ。 」
と、ボケに対してボケという、極めてリスクの多い会話をバンバン投げ合う。

もう、のび&ドラは無意識でこれをやらかすから、気付いてしまうとマズいです。

しかも、そこから上のコマですからね。ドラ一転ドっちらけてるし。これもパターンですよね。二人してボケてんのに、ドラが裏切る。

挙げ句に

「ふらないじゃないか。」

「あたりまえだよ。」

と、二人して天を見上げてやらかしますから。ぬううう。

そっからはもう暴走。

「お金をひろいそうなきがするんだけどな。」

と言う予感に対して、1円だったりすると、

「まだまだ信じかたが足りないんだよ」

と、ビックリするような事を言い出すドラ。

「よかん」をいったいぜんたいなんだと思ってるのか?

突然その後に又「笑う門には福来る」理論を持ち出して、更に混迷の度合いを水増すドラが笑える。

そこへ、ジャイアン登場。もう二人がこういうモードの時はタダのネタの触媒状態になるのが、脇役の役割。ここで出しゃばってくると話が濁る。

お約束通り不機嫌なジャイアン(あっからさまに不機嫌なのが爆笑だが)に対してびびるのび太に、

ついてるときぐらい ドーンとぶつかってみたらどうだ!」

とけしかけるドラえもんですが、この時の二人がもう大爆笑のコレ

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

ドラのポーズ! なんでウィンクで片足上げ? まあ、それは良いとして(良くないけど)、どんどん胸に手をあててその気になってくるのびに対して(「ひょっとして」だって)、無責任に「もっと強く!!」ってドラ、かあなり笑える。この二人こんなのばっか。

中期ドラの好きなところは、自分で暴走せず、かつ手助けもせず、説教もしない。あくまでも傍観者決め込むと言うか、端で見ていて笑ってるだけ系の性悪な部分ですよ。その端的な例が続くコレ

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑無責任だよそれ。しかも、すっかり虫なんかほったらかしでドラの煽動に洗脳されて突っ込むのび太ですが、ジャイアンに対したときの異様な「間」が死ぬほど笑える。何て表情してんだのび! そして、何故その表情で止まる!!

のび太のこういう現実から乖離したような危険極まる状態は、ホント読者としては笑えて仕方がない。

ジャイアンたちも困りますよね、こんな二人が近所にいたら。

しかも頭に虫をのせて!

機嫌が良くても張り手は当然でしょう。

で、おできをつぶすという幸運(一応道具の効果はあるようです)を受けてのび太

「なんでもやれるんじゃないかって気がしてきたよ。」

と、十八番の拡大解釈でイきます。しかもドラえもん笑顔で聴いてるだけ。止めろよ。

さらに二人の曲解行脚はとどまるところを知らず、コレ

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑いっかぁんですねえ。ここにきてまだ雑誌の運勢を拠り所とした希薄な根拠の自信=よかん(なんでそうなるのよ)を、ご存じグルグルを背に握り拳で語るのび太。しかも、相方のドラ「ほう」と来る。止まる気配なし。一向に。ほんと『分かいドライバー』のときもそうですが、バックがグルグルになるとイかん予感しかない。

そして、唐突にオチのよかんがやってくる。

しずちゃんがやってきて、全ての拠り所になっていた運勢が載っていた雑誌が先週のモノだったという、急転直下の展開。

ジェットコースター並に急速落下するのび太の落胆ブリが大笑いできますが、ここでもドラえもんの自分勝手とも言えるあがきが楽しめます。

「明るく! 明るく!」

と、一生懸命のび太の自信回復を煽るが、全然効果無く次々とろくでもないことが顕在化していくギャグの極めつけ。

「はたしてぶじにけりつけるだろうか……」

と言うのび太に

「よけいなことかんがえるな!」

と必死に訴えるドラに到っては、利己主義の極めつけ。

そして、サービス精神を忘れないのび太がかましてくれるコレ

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑どういうたとえばだよ。「どしゃぶりの夕立にあう」と言う極めて具体的なよかんが素晴らしい。

F氏の抜け目のないディティールとして、予感が的中するときは「よかん虫」がブルルンってはばたくんですが、しずちゃんがきたときも当然よかんがあたらないので鳴らないし、実はジャイアンが逆襲しに来てボロボロになるのものび太の予感の所為じゃないと言う整合性が素晴らしい。

そして、大好きなオチであるコレ

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑ザ・本音!!

これが全てですよ。ホントのび太の所為で酷い目に遭うのはドラえもんなんですから。でもこのイーブンな関係が後期ドラには欠けているような気がするんですよね。初期ドラも。ボクが中期ドラが好きなのはこの同一線上にいてバカな事ばっかりしてるコンビ的魅力なんです。

しっかし、この土砂降り描写、イメージ先行型のボクとしては、土砂降りになるといっつもこの画が頭に浮かぶんですよ。勿論傘なんて忘れたら間違いなくコレ。走る気無くしちゃってるのがリアルで、リアルで。

良いオチです。

 

というわけで傑作ぞろいの12巻からまずは「よかん虫」でした。12巻はこれどころじゃないエピソードがてんこ盛りなので、つづきを乞うご期待!

 

【追記】

ジャブとか言っておきながら、「よかん虫」はとびっきり面白いんですよねえ。しめにも書いていますが、わたしが勝手に呼称ししている「中期ドラ」の魅力というのは確実にあってですね。絵柄も一番安定していて、なおかつ小学四年生より上の学年向けに描かれたエピソードに多い気がします。F先生の遠慮がないやつw

しかし、何度読んでも素晴らしいオチです。絵のクオリティの高さと、ドラの珍しい長口上のボヤキ(しかも全部ひらがなw)。めった「!」を使わないF先生が、一つの吹き出しにふたつも使ってますからね。ドラえもんの憤懣も遣る方無いどころじゃなかったんじゃないでしょうかw

ま、あれだけ一緒にボケたおして煽っておいて何言ってやがるという気もしますがw

 

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書いた人

ビューティー・デヴァイセス(元ミラー貝入)

映画や漫画やゲームが大好きです。 [詳細]