変ドラ・スペシャル
「合体バラバラの世界 」
ドラえもんには、身体をバラバラにする話や、逆に合体する(取り替える)話が、よく(しょっちゅう?)ある。
そして、そういった話は
異様
に面白い話が多い。
取り上げている巻数を見ていただいても判ると思うが、初期から中期に描かれた作品に、そういった話は集中している。
ネタ的に終盤は描きづらくなってきたのかもしれないが、こういった話を描いているときのF氏は、完全にレッド・ゾーンに突入しているのが殆どなので、
非常に残念だ。
何にしても、ギャグ漫画としての基本中の基本とも言える、絵で笑わせる話が粒ぞろいなので、ご堪能いただきたい。
では珠玉の
「合体バラバラ」特集
を始めます。
先ずは比較的おとなし目のコレ
↑いきなり蛇ですよ。インパクトが凄い。その前に「あいあ~い。」と登場するときから無茶苦茶ドラえもんが笑顔なので、爆笑度、合体度、共にかなりの高ポイント。鈴がちゃんと付いているあたりが妙にちゃんとしていて笑えるが、このコマのポイントはのび太の気絶っぷりが実にいいから。そりゃあ、気絶すると思うよ実際コレは。
「合体ノリ」
ってタイトルからしてもうそのままな話ですが、扉絵の
「のび太の身体にドラえもん頭」
という絵で、既にネタバレをしているのは、この蛇ドラがあるからという自信の現れでしょうかね。それにしてもヘビなんてよくいたもんだとおもいますよ、いくら昔でも東京の町中にヘビは居なかったと思いますが。
「びっくりさせすぎちゃった」
ってのもいいですよねえ。そりゃびびるって。
まあ、これは序章ですよ。
続いてコレ
↑見捨てられてます。のび太の「分身」ネタの一つとしても有名な「人間切断機」ですが、これはバラバラネタとしてもいいですよね。切断する機械が、ノコギリですもん。そのものです。「別のひとがはいるんだよね」と笑顔ののび太に、ドラえもんが「はいらない」とクールな台詞で返す場面も大笑い出来る話。
この話で一番好きなのは、切られた後の
「ほんとに切るやつがあるか。」
と激昂するのび太を、これまた平然と見ているドラえもんのコマ。
あれは笑った。そりゃそう言うよなあって感じで。
「かんたんにくっつくのり」
って発想もイージー極まっていて。
子供心に、電子頭脳をつけられた下半身がジュースを持ってきたりする場面で、どうやってジュースとかを取ったんだろうと、そればっかり気になっていた覚えがあります。
電球を買う場面の電気屋の主人が
「ま、ま まいどありい。」
と二回も「ま、ま」って言うのも(誤植かもしれないけど)珍しい強調で笑える。
ちなみに上半身のびの腰の切れ目には、脊髄らしき丸があるんで、アレも妙にリアルで好きでした。
ジャイアンにコナゴナにされる上半身のびの絵も相当面白い。
それから、ちょっとイレギュラーなんですが、あまりにも面白いのでコレ
↑出ました「猿ドラ」。藤子不二雄ならではの爆笑合体。他にも「がんばれ元気」とか「男組」とか、どれも相当な面白さなんですが、やっぱり子供の頃からコレが死ぬほど面白くて。仮にも「二人で一人」とかいっておいて、これだけタッチが違えば子供心にも「ああ、二人だな」って判るってもんですよ。あのA氏独自の締まりすぎの身体つきと、手のしわ加減や手首のつなぎ目。それにあまりにもF氏タッチのドラえもんがのっかちゃってる猛笑ブリ。ドラえもんの表情がちゃんと猿入ってるのが異様に面白い。「あっ。」って。意地でも「!」を使わないF氏が好きです。
で、いよいよ合体バラバラネタの最高峰の一つとも言える作品
「手足七本 目が三つ」
(現在「ねこの手もかりたい」に変更・・・・こっちの方がいいのに)
この話の変度は相当な物で、発端からして素晴らしい。
同じアングルのコマで4コマかけて延々と「自らの金欠ぶり」を訴え続けるのび太が笑わせる。
「まずしさを感じる」
「金がくはふえてるんだけど 」
「物価のねあがりが」
「十円でも落ちてないかな」
この間、後ろを歩くドラえもんの無関心ぶりが実に良くて、ホントのび太ってお金に関する話だと徹底的にリアリストというか。
地面に落ちている十円を捜すのび太が、車にひかれそうになる(ドラえもんがもの凄い跳躍をして助ける)ので、
「うしろに目をつけよう」
という・・・
もうココからして動機が妙に狂っちゃってる訳です。
そして取り出す道具が名付けて
「つけかえ手ぶくろ」
↑何コレ? タダのビニール手袋です。実は今回取り上げる合体バラバラ特集の道具は、一部を除いて猛烈に安直なデザインとネーミングです。
ヒネらなさ過ぎてるのが逆に可笑しくなるほど安直。
合体ノリもただのチューブですからね。それにしてもコレは凄い。
相変わらずののび太の無表情も無茶苦茶笑える。あんな表情ならコマの中に居る意味ゼロなのに、何故F氏は描いたんでしょう。手と道具のアップという常套でいいと思うんですが、まあ面白いからいいんですけど。
デザインの安直さに勝るとも劣らないその使い方とは、なんとその手袋で身体の部位を摘み取るだけ!
手袋をつければゴムマリの手を持つドラえもんも、ああら不思議に五本指(この言葉も書くとどきっとするのは何故?)。
そして、やけにリアルな描写がコレ
↑凄い近視です。まあ、自分もメガネ人なので、こんなモンですが、こういった所でちゃんと「コンタクトレンズ」をハメて見えるようにする描写があるので、変に実感があります。
もう一つの目も足につけてまで、十円を拾うことに固執するのび太に仕方なくドラえもんが
「袋詰めの身体パーツ」(キた!キた!)
を取り出す。
もう後は止まらないです。ドラえもんの目玉まで取り上げて、のび太の暴走開始。
↑ウシシシ。やっぱり前の二コマに逆への字口で温和顔を見せておいての邪のびはいいですねえ。両手でバック持って「~ものですよ。」と言う台詞が、よくある「読者への説明口調」なんですが、丁寧なのが妙に可笑しい。しかし、のび太の表情最高に黒いですねえ。
部屋に帰ってあれこれ邪悪な策を練るのび太は、ママに「手を貸す」お約束をかまして、いよいよ行動開始。
手に目と口を付けて(コレ恐い)スネ夫に友人を集めさせて、実地演習を試みるのび太。
↑手のひらで顔を覆っているのび太が恐すぎ。いきなり友達が玄関でこれしてたら背筋凍ります。挙げ句に元の目までかなり恐い目です。のび太判ってるなあ。
後半でもそうですが、何故かスネ夫が合体バラバラネタの時はいい味だしてくれます。
ジャイアンたちを呼び出して(この時スネ夫が珍しく「ジャイアンくん」なんて言ってます)のトランプ大会が始まり、当然のび太が身体の部品を付けまくってインチキする訳です。
もうここら辺りのフリークスぶりはヤバい。
↑食ってます食ってます。ムシャムシャ。これって怪談の「後ろ頭に口がある女」そのものだけど、お腹って直接的でいいよなあ。しかも両手付けてむさぼり食ってますもん。
オバケだあああ! と全員がスクリーントーン顔で仰天しますが、それに向かって
「おどかしてごめん。」
とかますのび太。
無理言うな。
「かし目」「かし足」「かしうで」「かし口」
危ない。あまりにも危ない。
これを冒頭から尾を引いている「十円」で貸そうという訳です。その計画をドラえもんにうち明けて、「ドラやきをうんとかってやるぜ」と嬉々として(身体揺すって)話す邪悪のびに、ドラえもんもむっつり(目無いけど)。
それを見てのび太の台詞が最高。
「おこってんの?」
正気かのび太?
怒ってない訳ねえだろ。
そして、ここからいよいよ合体ネタのつるべうち。
↑のび太の眉毛がその気満点でいいです。商人面で台詞も最高「オウ」って。それにしてもこの少女漫画目は白ゆりのような女の子みたいでいいです。しずちゃんはいつもの目で充分可愛いのに。女心ってのはこんなもんでしょうかね。
そして、スネ夫最高のコレ
↑笑わずにいられない。スネ夫の仰天した目が戻れない系です。「からだねん土」と言う未収録の話では、ドラえもんが足をつけて爆笑モンなんですが、こっちのあまりにもきれいな足はかなりポイント高し。
もうこれ以上の話は見あたらないと思ったら、とんでもない話がまだ。
「からだの部品とりかえっこ」
ズバリ過ぎますタイトル。「かえっこ」なんて軽そうに見せてますが、やってることはドラえもんの中でもトップクラスのバラバラ合体ぶり。
道具が大きすぎて裏山に置いてあると言う設定上、裏山にしずちゃんを呼び出すあたりからしてただならぬ雰囲気。
しずちゃんの頭をのび太と入れ替えて、頭をよくしようと思ったが、脳味噌ごと変わるので意味がなかったと言う、しょっぱなからオチてしまうこの話。
ところがドラえもんの欲望が話をもの凄い方向へ進める。
↑ホントに珍しいドラえもんの羨望面。しずちゃんの身体を持つのび太の絵もユニセックス的な色気が漂っていて、妙な雰囲気醸しだしまくり。
この話、バカでも判る上記のオチに気付かぬばかりか、部屋に置けないでかい道具まで用意して悪のりしているドラえもんが、全ての元凶ってのがホントに珍しい。
加えて感極まったコレ
↑舌出しはいいとして、鼻息がA過ぎる。確かにこの足はそそるが。
「長い足のスピード感をたのしんで」とか何とか狂いまくった欲望をまくし立てて、しずちゃんの迷惑も顧みず、足をまたがりするドラえもんが、後期マジメドラには見られない無謀加減。
そして、またもやスネ夫が最高なコレ
↑ドハハハハ。爆笑度臨界点突破。全然かっこよくないドラえもんの「記念写真」ってのはとりあえずいいとして、ドラ足ののび太は反則級の面白さ。加えてスネ夫の驚愕顔。ホント面白なあコレ。
これだけ吃驚しておいて、スネ夫は今度はなんと指にご執心と言う、ある種マニアックな欲望。
↑目が、目が。スネ夫の目が面白すぎます。何で目まで乙女チックなのよ。クネクネって擬音とハート目に、ジャイアンのポジションが絶妙のギャグの波状攻撃の始まり。
いやあ、いいですよ畳みかけは。ジャイアンまで絡んでくるのがもう止めどなくて。
↑期待に応えます。そりゃ身体しか残ってないモン。すばらしくない! なんでこうも皆陽気なのか。のび太だけがボロクソになっていくのもありそうでない展開。人身売買センスここに極まれりですか。最終のびが実にバランスいいのが何とも哀れで。
スネ夫以外は二目と見られないほどのフリークスぶりなのに、狂喜乱舞しているのは異常の極み。
この話「よくよくみたら」としずちゃんが戻ってきてオチになるんですが、しずちゃんも早く気付けっての。
実は最後の一コマ漫画でドラえもんとしずちゃんが頭入れ替えていて、しずちゃんすら容赦ない話。
とまあ、合体バラバラネタは兎に角F作品の中でも特異なポジションにあるというか、登場人物も含めて全体としてクレイジーとしか形容のしようがない面白さが満ち満ちていて大好きです。ドラえもん世界のフレキシブル(?)さを堪能できると言う意味でも大切な作品群でしょう。
ところが、てんとう虫コミックに納められている作品としてもギリギリいっぱいのネタ揃いの「合体バラバラ」ネタですが、実はまだ真打ちというか切り札というか、そういった作品が未収録で残っているのです。
自分もつい最近までその存在すら知らず、先頃遂に読むことが出来た信じられないような特級クレイジー作品が。
国会図書館に眠るその作品こそ、その名も
「分かいドライバー」
次回は「合体バラバラ」スペシャルの後編として、遂に大公開(?)させてくだちいな(←シナリオライター調)。
乞うご期待。
おまけ
↑これには何物も敵わない。
ではでは。
(引用エピソード一覧)
「合体のり」
「人間切断機」
猿ドラ→「主役はめこみ機」
「手足七本目が三つ」→現在「ねこの手もかりたい」に改題
のびえもん→「ウルトラミキサー」
「からだの部品とりかえっこ」