納涼恐怖企画「恐ドラ」 本当に怖い、ドラえもん。 さて、段々と暑さも増している今日この頃。梅雨の雨も鬱陶しいので、今回は納涼スペシャルをお送りします。 コロコロコミックでドラえもんに目覚めた人間として、夏だけ巻末に載った恐怖コミックは今でもトラウマになっていたりするんです。 「崖から落ちそうになった友達を助けなくて、呪われちゃう少年」 の話とか、 「口裂け女」 の話とか。今でもエレベーターのドアが開くと立っている絵が脳裏にこびりついてこびりついて・・・(ポマード!ポマード!) ゆかいな、ゆーかいなまんが、日本一の面白まんが、であるドラえもんにも実は恐怖漫画としか言いようのない話があります。 少なくとも自分にはトラウマになっている話が幾つかある! そこで今回はそんな恐怖漫画ドラえもんの氷山の一角を特集したいと思います。 まずは序章としてコレ ↑地球儀ならぬ天球儀で地球と何もかも正反対の星を見つけた時に、突然二人とも大興奮してまくし立てる場面。七夕のお願いを釣り竿でしてたり、ラストの落語的なオチをはじめとして、全体的に明るい雰囲気なのだが、どうしてかイキナリこんなになっちゃうんですな。子供の頃この「反世界」ってのが怖くて恐くて。冷静に考えればあべこべだからどうだってんだって気がしますが、この時ののび太の興奮した絵とドラえもんの相づちが妙に恐かったんですな。「まさしくそれだ!」ってのが。というよりも、なんで影処理なんだっての。だから恐いんですよ、もー。 あ、こんなのはジャブですよ、ジャブ。まだジョーが留置所ではがきのパズルで覚える程度の物。 続いてはストレートいきますよ。
↑これも今でもトラウマになっているひとつ。海嫌いなんですよ。その原因の半分がコレ。ただでさえ底なしに近い深さの場所で、のぞき込んだら「すごい目」で視られてご覧なさいよ。のび太の仰天なんてまだまだだと思いますがね。加えて、上の眼。激恐ですよ。でものび太びびりながらも「アーケロン」なんて事知ってるあたりが凄いです。自分もコレで知ったんですがね。上記の反世界といい、のび太妙に蘊蓄ありますよねああいう事柄に。 こういうイマジネーションに訴えつつ、ホントに恐いと思わせる画力を持つF氏はホントに凄いですよね。「絶滅の島」は伊達じゃないですな。 そして、友人達の間でも割とトラウマになっているのが続いてのコレ。
↑どうなんですかコレ。コレもまた海だけじゃなくて水そのものが恐くなってる原因です。だってここ公園の池ですよ。タダの。とりあえずネッシーっていったら、先ずこの話思い出すし、このコマの性で夢だの希望だのコナゴナで、ネッシー=恐怖そのもの。手足がヒレだし、背ビレまで付いてて、挙げ句にあの顔・・・ドラミちゃんも夜の池の中でコレみてミサイルみたいに飛び出て来るんだけど、こんなの池の底で見たら、自分で呼んだの差し引いて当然の行動だと思うね。 子供の頃にニュースで見たものが鮮烈な、ニューネッシーにも同様の恐怖を植えつけられました。 で、ちょっと休憩の意味も込めて、コレなんですが。
↑イってます。名作であり、全国の少年少女に「賄賂」と言う言葉より先に「Yロウ」って言葉を覚えさせて、後で「あああ」と思わせた作品から。ジャイアンが雨なのにYロウパワーでのび太を迎えに来るんですが、こういった雰囲気は円谷系の恐怖と言うか、F氏自身の異色短編テイスト溢れまくりで好きです。まあ、恐くはないんですがね。両手きちんと揃えて気をつけしてるのび太のポーズも妙に可笑しい『間』。 同じパターンで、ジャイアン・ファンクラブの暴走を描いた佳作からコレ
↑実際のファンってホントにこんなもんですよね。まあ、目のイキ方はやっぱり異色短編チックで、かなり「流血鬼」ラスト入っちゃってますけど。しずちゃんまでイってる様は背筋が寒いですね。秋に渋谷のパンテオンの近くに行くとコレが見られます。(悲しいかな今やその渋谷パンテオンは閉館してしまいました。まさかこんなことが起こるとは…) そして、ただ恐いだけじゃなく、トワイライト・ゾーン的な後先不安系恐怖の最高峰であり、子供心にかなりズンと来る教訓話の体裁をとる(でも結局恐い)コレ
↑邪悪ドラ。のび太も現実感のない顔してるぐらい、ドラえもんの言ってる事が恐い。「消してしまえ」ってのが実に極寒。 「どくさいスイッチ」って名前からして相当なもんだと思うけど、実際こののび太の状況になったらどうしましょう。
↑F氏って何度も言うし、言う必要もないけど、天才ですね。上の空き地の寒々した描写。腕組みのび太と縦線の雑草。しずちゃんを呼ぶときの焦りっぷりはただ事じゃない恐怖。 似たような話で「無人境ドリンク」とか「いしころぼうし」も恐いですが、こっちは怖さの質が段違い。だって、上のはみんな居るけどこっちは居ないんですから。だあれも。 「ゴルゴンの首」。 これって当時流行していた動物パニック映画の典型的なパターンを踏襲していながら、流石F氏と思わせるほどに二転三転するんで、実際は駄作ばっかりだった当時の動物パニック映画何かより、はるかに面白くて、ハラハラドキドキできます。 冒頭から 箱に入っている のが、かなり厳戒態勢というか、フェイズ4的な恐怖バリバリで、それに見られちゃうと石になってしまうゴルゴンを裏山にのび太が落としてしまう。そのうっかりな感じが凄く恐くて、そこでもゴルゴン自身の姿は描かない。ここらあたり動物パニック映画そのもの。 決死隊三人なんですが、ここからのゴルゴン退治もかなり凄くて、先生が石になってる場面なんかも含めて相当な怖さ。しかも生き餌にされちゃうのび太とスネ夫だけど、スネ夫が真っ先に裏切って逃げ出すのがキャラの使い方として絶妙。 しかも、そのスネ夫がやられちゃう構成が圧巻。
↑動物パニック物が面白くなる物語手法として、いったん観客(読者)の注意を対象から効果的に逸らせておいて、虚をつく形で本命が出てくるやり方がありますが、この場面ではそれが完璧に成功しており、びびるびびる。勿論叫び声だけだから更に恐い。逃げた先に居るってのはお約束ですが、そのお約束を読者の意識から一瞬外すのがテクニックです。この場合はスネ夫とのび太の内輪もめがそれにあたります。 この後、腰が抜けてしまうのび太もハッキリ言ってギャグじゃないですよ。ハラハラさせるだけ。巧すぎ。 ↑構図の素晴らしさと相まって、ゴルゴンの後ろ頭が恐いなあ。読者に絶体絶命だと思わせるのは凄いですよ。文字通りオチが付くまで息がつけない素晴らしい作品です。 ・・・ さあ、ここまできて、 「あれ? あれがないんじゃ?」 と思っている人も多いと思います。 そうです。おおとりはヤッパリ、ドラえもん史上最恐の話であるコレ 「人間製造機」です。 てんとう虫コミックの8巻に入っているこの話。有名なのでかなりの人が覚えていると思います。 新世界デパートと言う未来のヤバい(さすがに以降登場しない)ところから届いている「人間製造機」を、 よくあることですが 「触るな」 と言ってドラは無責任に家を出ていきます。 ドラはこのとき、 この後どれほど想像を絶する展開になるのか(漫画的にもドラ的にも。そして、読者的にも!)、知る由もない。 毎度毎度「じゃあ、どうして仕舞わない」「触るなと言って触らないのび太じゃない事ぐらいまだ気付かないか」と読者にハラハラさせる展開。 案の定のび太は 触る気満々 で説明書を読み始める。 もう、部屋に置いてある「人間製造機」の作画が、全然通常のほのぼのタッチからかけ離れた描き込みブリで、否応なしに「この話は恐い」と思わせてくれる。 デザインもまったく通常の秘密道具然とした雰囲気ではなく、夢もかけらも感じさせない。戦時中の細菌兵器部隊とかナチスの秘密実験所とかのムードをガンガンにかもし出します。なんせ、テーマがホムンクルスだけに、現代的に見ても常軌を逸した激恐デザインです。
↑ここでも、ちゃんと「なんだ、こりゃ?」が使われています。笑えないですけど。ご丁寧に説明書まで置いていくドラのご都合主義では済まされない狂った行動が笑えません。 そして、その説明書を読むだけのコマがコレ ↑真っ黒。ホントここただ説明書読んでるだけで、吹き出しの中も作り方がそれらしく書いているだけ。なのにもうブルブルくる。展開知っているからなおの事恐い。いやあ、背景の恐怖効果が的確すぎて言うことなし。 この話「小学六年生」の7月号に載っていたとのことなので、恐らく「夏休みの宿題」ネタとして描かれているんですよ。宿題の工作でジャイアンとスネ夫にバカにされたことでこいつに手をつけてしまうわけです。 人間を作るための材料が、なんか微妙に説得力があるんですよ実際。そこんところはF氏のSF作家としての資質が隠し切れてないんでしょうな。 「……約3キロの人間ひとり分の材料が、そろいます」 って説明が実に説得力を生む。 で、一部で有名な 「ふたりでいっしょに作らない?」 があるんですが、そんなの今回は どうでもいい です。 それからいよいよ材料ぶち込んで作り出すんですが(もの凄い簡単な作業。コマ数3コマ。そんなの工作じゃない)、ドラえもんが気になって帰ってくる。 気になるなら最初から出かけるなよと言う、読者百万人のツッコミを無視して、一人で焦ったり、安堵したりします。 ここの心配ブリが実に緊張感を煽る。 そして、決定的な展開が(スイカ食べながらだけど)訪れる。 ↑真っ黒!! うわあああ。最悪ですよコレ。国連軍なんて生々し過ぎ。さすがしょっちゅう国連事務総長を呼び出そうとするドラえもんですな。ドラえもんの台詞と黒さが、強烈に未来世界の地獄絵図とパニックを想像させて身も凍るような恐怖。 ここらはゴルゴンよろしく、頼みの綱のドラえもんが倒される絶体絶命の展開ですが、ゴルゴンと決定的にレベルが違うのが、ミュータント赤ちゃんの造形が死ぬほど恐いこと。 可愛げ0% ドラえもん史上最もイカんのがコレ
↑実際問題恐すぎだよコレ。自分でふた開けちゃってるし。ゲシシシシ・・・・がぁぁ。 自分で出産したミュータント赤ちゃんはテレパシーでのび太に命令。
↑これ一応ギャグのつもりなんでしょうね。全然笑えないんですが。目と口が強烈です。背景の効果もうんざりするほど笑えない。当時の映画「悪魔の赤ちゃん」の数倍恐い。 その後、しずちゃんがやってきて、お約束の大人ギャグが炸裂して、ミルクがおじゃんになったとき、激怒。 しずちゃんを電気死刑に処そうとするミュータント赤ちゃんがコレ
↑ホントにこんなのが仲間増やしたら人間は征服されますな。うううん、F氏やりすぎ。編集者も止めなかったんですかね。 編:「先生コレは学年誌掲載分ですよね?」 とか言ってるんでしょうか。 オチなんてどうでもいいんで、書かないですけど(はははは)、この話は個人的に最も恐いドラ話としてトラウマになってます。 もっとも、知り合いに訊くと必ず 「バイバインは恐いよね」 と言われて元も子もなくなるんで、困りますが・・・・(あれも絶対恐怖モノの傑作ではあるんですが・・・) おまけ
↑やっぱ異色短編のほうが恐いや。 とりあえず合い言葉は 「ミルク・モッテ・コイ・・」 で決まり。 ではでは。 |
(引用エピソード一覧)
「あべこべ惑星」(半世界)「大むかし漂流記」(アーケロン)
「ネッシーがくる」
「Yロウ」
「フィーバー!!ジャイアンF・C」
「どくさいスイッチ」
「ゴルゴンの首」
「人間製造機」
「丑の刻禍冥羅」