「ブルートレインはぼくの家」
てんとう虫版ドラえもん25巻より

この話は友人の大好きな一編で、僕自身かなり好きな話だ。

あらすじとしては、「スネ夫の自慢を聞いたのび太がワガママ言って、ドラえもんがそれを叶える」典型的な話。

ブルートレインに憧れるってのもなんか渋い物があるが、面白いのはドラえもんの叶える方法。
ワッペンを付けただけで、家をブルートレインにしてしまうという力技。
しかも道具の名前は不明と言う思い切りの良さ。

ワッペンを玄関に張り付けて、電車でGO!のコントローラーそのままの機械をのび太の部屋に置くだけで野比家はブルートレインになってしまう。しかも四次元に入って住宅街を突っ切って線路へ向かう。

↑この異様な光景。例の空き地を家が進む図。

そもそも家にいながらにしてブルートレイン旅行を楽しむという、極化した願望が笑わせてくれる。
ドラえもんの面白みの一つに、家の中で全部済ませてしまおうという箱庭感覚というか、盆栽に通じるような日本人のわびさびがあると思う。「日曜農業セット」なんか最たるモンだし、「お座敷釣りぼり」も典型的な例だろう。
だが、この話は部屋どころか家ごとってところにスケールのでかさとそれに比例するバカっぷり(勿論誉め言葉)が際だっていて特筆モンだと思うがどうだろう。

さて、ブルートレインハウス(?)は線路にたどり着いて一路進むが、四次元にいるってのにちゃんと線路にこだわっている辺りも素晴らしい。まあ、線路を走らなければブルートレインとしての存在意義があるわけないし、ましてやそれが家そのものの場合それは更に重要だ。

だが、そのもの過ぎるから、下のような異常極まる絵になる。

↑この絵の爆笑ポイントは数あれど、やはりドラにしては描き込まれ過ぎた背景が、線路を走る家と言う物を強調させるに充分なことを心得たF氏自身のセンスを推したい。ここに敢えてゴトンゴトンと言う擬音がまるっきり無いところも、かなりくるものがあるが。

のび太とドラえもんが途中「食堂車」と称して一階でご飯を食べるシーンも何とも願望充足と言うか、夜食を食べるという子供の持つ変な願望をよく分かっている。もともとF氏は美味しそうな食べ物を描かせたら漫画家の中でもトップクラスの人間だけに、ここでも外さない。
窓の外を夜景が流れている情緒感も、その後の駅員の驚愕ぶり(そりゃホームに家が入ってくれば驚くに決まってる)と対比していて笑えるポイントだ。

続いて起承転結の様な基本をキチンと知り尽くしているF氏は、パパが起きてたばこを買いに行くと言うサスペンスを用意している。

そこでのドラえもんの

「ブレーキかけなきゃ」

ってのも相当笑える。まあ、動いていたら危ないからもっともだとは思うんだけど、非現実な世界での現実感のある行動がやけにおかしいってのもドラえもんの面白い部分だ。
そして、ギャグ漫画のお手本のような下の絵を見てくれ。

↑ブレーキの慣性でつんのめるパパのシロクロした目も笑えるが(勿論ギ・ギーって擬音も)、玄関を開けた時のパパの顔にかかった影と、目の前が山の中って言うお約束が最高。パパの目を見開いた引きの画も素晴らしいが、一番のポイントはいきなり線路じゃないってところだ。あんなに線路にこだわっていたくせに、面白い画面を優先させたF氏の卓越したセンスにここでも感心と共に爆笑。

ねぼけないでの一言で済んでしまう、全然説得力のないオチだけで終わるこのサスペンスだが、のび太の「発車していいよ」も小さく笑えるポイントだ。

で、最強に笑える事に、ブルートレインだから遠出っていう所もちゃんと叶えちゃってるところと、寝台車だから当然寝てるのび太が素晴らしい。
いつものことだが、ドラえもんの無償の善行が胸を打つ(っていうか笑える)。
挙げ句にシルエットで台詞が

「おきろよ」

そりゃそう言うしかないけど。

もの凄く遠くまで走っているのを表現するために、これまた分かっている大ゴマを入れてくるのも良い。

↑バックの山が雄大過ぎる。他の住宅街とちょっと見全然変わらない騙し絵のような野比家も笑える。しっかりと線路を走っているのも当然素晴らしいし、山にかかってるゴトゴトンって擬音もパーフェクト。

オチは終点の海に着いたのび太とドラが楽しそうに泳いで終わるという、安直というか全然オチてない所もこの話の素晴らしいところだ。

小さく砂浜に佇む家も、気付いてしまうと一生忘れられないほど尾を引いて笑えるので注意。

↑砂浜まで来てます。幾らブルートレインでも砂浜までの直行便はないでしょう。しかも傾いています。微妙に。

ドラえもんはこの手の「よく読み直すとヤケに面白い」話がごまんとあるので、これからも機会があれば紹介したいと思う。

ではでは。