変ドラ第12回、その1

「よかん虫」

初出〜小学五年生1976年7月号〜


30年も前から連載が始まり、これほど長期間に渡って単行本が発行されていると、かなりの世代に渡ってそれぞれの思い入れが有ると思う。

ボクは1巻から16巻まで一気にてんとう虫コミックを購入して貰ったわけですが、毎号なぶるように読んでいたコロコロコミックと、この16冊は文字通り他のドラえもんとは別格に思い入れが強い。

そして、以前にも書きましたが、その中でも特別やたらと読み込んでいた巻がある。

それが今回連載と言う形式で選んだ12巻である。今回12回という事で、

「ええい、選り好みするより全部取り上げてやれ」

と決心するほど、ド傑作揃い(少なくともボクの中では)のこの巻を、丸ごと一話ずつ取り上げてみたいと思います。

と言うわけで、自分の首を絞めるような今回の変ドラを始めたいと思います。


先ずはちょっとフェイント気味にジャブとして

「よかん虫」

から始めます。

ドラえもんの道具の中には、何故か頭に乗っける道具が結構あります。一番有名な「タケコプター」からして頭にのせます(最初はお尻ですが)。

パパが笑わせてくれる「あらかじめアンテナ」もかなりのもんです。

参照

で、このよかん虫という道具も、いきなり頭の上に虫型ロボット(蚊?)をのっけた満面笑みののび太が行進する様に歩くのを、これまた意味不明に笑顔で追ってくるドラえもんと言う、よくよくみると笑いがこみ上げる扉絵から始まります。

↑躁病気味の二人ですが、ここでのポイントはやっぱりのび太の行進。すんごい勢いですが、股のホワイトが無いと危なく右手と右足が同時状態と言う、極めて衝撃度の強い事態に陥りそうで恐いです。子供の頃はそのホワイトに気付かずに、勝手に「ヤバすぎるぜのび太」と心底笑ってました。その方が面白かったのに。ちぇ。

で、話の本筋に入るわけですが、いきなりコレ

↑のび太、よくあることですが、部屋でいきなりコレで体育座りはいかがなモノかと。眼球黒目の所のまぶたが実にションボリです。

「いやなことでもあったの。」

と、珍しくのび太を気遣う(でも当然顔は白ドラ)ドラえもんに、

「いやなことはこれからおこるんだ。」

とうそぶくのび太。その理由がコレ

↑いわゆる「眼瞼痙攣」ですね。眼輪筋の発作性の痙攣ですが、あれが延々続くとかなり厳しい状態になります。とは言え、それをいきなり「いやなことがおこる前ぶれなんだ。」と極めてネガティブな思考回路で捉えるのび太が極端で笑える。いつもながら邪教教祖の素養充分。自分で信じ込んでますからね。タチ悪いですよ相変わらず。

それを見てドラえもん大呆れ(当たり前)

のび太は「虫のよかん」と言う言葉を持ち出すが、ドラえもんは「笑う門には福来たる」と言い返す。

この時のドラえもんのポジティブ・シンキングはホントに素晴らしくて、ブラス思考をボクはこの話のコレで学びましたよ。

ところが、この話はそんな説教とは裏腹な強烈な展開を見せてくれて、

突き詰めれば語呂合わせ発想

と言うF先生特有の素晴らしいネタに成り代わる。

虫のよかん→虫→よかんが顕在化→あれこれ→勝った!

ってな発想ですね。

この話はボクの好きなのび&ドラが二人でバカすると言う典型的な例で、その具体的なパターンがコレ

↑わはははは。いきなり曲解。

どういう事かというとですね、要するに二人が漫才よろしく掛け合いをしてくれるパターンです。それも読者を有る意味置いてけぼりにする様な感覚。なんか二人だけの特殊な空気を形成している豊穣な高レベルな笑いってんでしょうかね。

ドラえもんの笑いのパターンっていうのは、コントタイプと漫才タイプがあると思うんですよ。道具立てで笑わせるコントタイプと、こういうのび&ドラの掛け合いによる漫才タイプ。

ボクは断然後者が好きで、ここでの流れはこうです。

○いきなり逆への字口笑顔ののび太、後ろ腕組みで家から出てくる。
  「なにかいいことありそうな気がしてさ。」
 と、雑誌の運勢ぐらいでこの好転ぶり(充分ポジティブだっての)

○それを聴いてドラ、
 「そりゃけっこう!!」
 と、(古風な)上機嫌。

○で、よかん虫登場。
 「とまるとそのよかんがほんとのできごとになるんだ!」
 と、もう既に段違いに間違った理屈をかますドラ。

○もう止まんないのび太ときたら、ランラン顔で
 「ぼ、ぼく とってもいいことがおきそうなよかんがしているよ。」
 と、 虫に云う

○更に虫がとまって万歳するのび太
 「さあ いいことがおきるぞ!」
 と、云うや、
 「どんないいことか、なるべくくわしく考えるんだ。 」
 と、ボケに対してボケという、極めてリスクの多い会話をバンバン投げ合う。

もう、のび&ドラは無意識でこれをやらかすから、気付いてしまうとマズいです。

しかも、そこから上のコマですからね。ドラ一転ドっちらけてるし。これもパターンですよね。二人してボケてんのに、ドラが裏切る。

挙げ句に

「ふらないじゃないか。」
「あたりまえだよ。」

と、二人して天を見上げてやらかしますから。ぬううう。

そっからはもう暴走。

「お金をひろいそうなきがするんだけどな。」

と言う予感に対して、1円だったりすると、

「まだまだ信じかたが足りないんだよ」

と、ビックリするような事を言い出すドラ。

よかんってなんなんだよ?

突然その後に又「笑う門には福来る」理論を持ち出して、更に混迷の度合いを水増すドラが笑える。

そこへ、ジャイアン登場。もう二人がこういうモードの時はタダのネタの触媒状態になるのが、脇役の役割。ここで出しゃばってくると話が濁る。

お約束通り不機嫌なジャイアン(あっからさまに不機嫌なのが爆笑だが)に対してびびるのび太に、

ついてるときぐらい ドーンとぶつかってみたらどうだ!」

とけしかけるドラえもんですが、この時の二人がもう大爆笑のコレ

ドラのポーズ! なんでウィンクで片足上げ? まあ、それは良いとして(良くないけど)、どんどん胸に手をあててその気になってくるのびに対して(「ひょっとして」だって)、無責任に「もっと強く!!」ってドラ、かあなり笑える。この二人こんなのばっかり。

中期ドラの好きなところは、自分で暴走せず、かつ手助けもせず、説教もしない。あくまでも傍観者決め込むと言うか、端で見ていて笑ってるだけ系の性悪な部分ですよ。その端的な例が続くコレ

↑無責任だよそれ。しかも、すっかり虫なんかほったらかしでドラの煽動に洗脳されて突っ込むのび太ですが、ジャイアンに対したときの異様な「間」が死ぬほど笑える。何て表情してんだのび! そして、何故その表情で止まる!!

のび太のこういう現実から乖離したような危険極まる状態は、ホント読者としては笑えて仕方がない。

ジャイアンたちも困りますよね、こんな二人が近所にいたら。

しかも頭に虫をのせて!

機嫌が良くても張り手は当然でしょう。

で、おできをつぶすという幸運(一応道具の効果はあるようです)を受けてのび太

「なんでもやれるんじゃないかって気がしてきたよ。」

と、十八番の拡大解釈でイきます。しかもドラえもん笑顔で聴いてるだけ。止めろよ。

さらに二人の曲解行脚はとどまるところを知らず、コレ

↑いっかぁんですねえ。ここにきてまだ雑誌の運勢を拠り所とした希薄な根拠の自信=よかん(なんでそうなるのよ)を、ご存じグルグルを背に握り拳で語るのび太。しかも、相方のドラ「ほう」と来る。止まる気配なし。一向に。

そして、唐突にオチのよかんがやってくる。

しずちゃんがやってきて、全ての拠り所になっていた運勢が載っていた雑誌が先週のモノだったという、急転直下の展開。

ジェットコースター並に急速落下するのび太の落胆ブリが大笑いできますが、ここでもドラえもんの自分勝手とも言えるあがきが楽しめます。

「明るく! 明るく!」

と、一生懸命のび太の自信回復を煽るが、全然効果無く次々とろくでもないことが顕在化していくギャグの極めつけ。

「はたしてぶじにけりつけるだろうか……」
と言うのび太に
「よけいなことかんがえるな!」
と必死に訴えるドラに到っては、利己主義の極めつけ。

そして、サービス精神を忘れないのび太がかましてくれるコレ

↑どういうたとえばだよ。「どしゃぶりの夕立にあう」と言う極めて具体的なよかんが素晴らしい。

F氏の抜け目のないディティールとして、予感が的中するときは「よかん虫」がブルルンってはばたくんですが、しずちゃんがきたときも当然よかんがあたらないので鳴らないし、実はジャイアンが逆襲しに来てボロボロになるのものび太の予感の所為じゃないと言う整合性が素晴らしい。

そして、大好きなオチであるコレ

本音!!

これが全てですよ。ホントのび太の所為で偉い目に遭うのはドラえもんなんですから。でもこのイーブンな関係が後期ドラには欠けているような気がするんですよね。初期ドラも。ボクが中期ドラが好きなのはこの同一線上にいてバカな事ばっかりしてるコンビ的魅力なんです。

しっかし、この土砂降り描写、イメージ先行型のボクとしては、土砂降りになるといっつもこの画が頭に浮かぶんですよ。勿論傘なんて忘れたら間違いなくコレ。走る気無くしちゃってるのがリアルで、リアルで。

良いオチです。

つづく。

 

12巻全部見せます!第2回
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