変ドラ・ページ~なんだ、こりゃ?~

ドラえもんをはじめとする藤子・F・不二雄作品の少し変な魅力をたっぷりとお届けします。

【帰ってきた変ドラ】間津井氏の芸術に酔いしれよう!『のび太放送協会』

time 2017/04/05

【帰ってきた変ドラ】間津井氏の芸術に酔いしれよう!『のび太放送協会』

変ドラ第五回

「のび太放送協会」

藤子・F・不二雄大全集ドラえもん5巻より

今回の話はドラミちゃんの「テレビ局をはじめたよ」のドラえもん版と言った感じの話で、大体の構成は似ている。
ドラミちゃん版の方は「テレビに出たい」と言うのび太の願望を叶える話だが、こちらはちょっと違って「テレビ番組を作りたい」と言う願望だ。珍しくクリエイティブな願望だったのが嬉しかったのか、ドラえもんも何時になく盛り上がって、

「おもしろい!」
「やろうよ」

とホイホイ(ホントに放り投げる)道具を出すので、話が早い。

ところで、どうしててんとう虫版にも収録されて一般的にはメジャーなドラミちゃん版ではなく、こちらを今回選んだのか?

それはズバリこんかいのエピソードに登場する

「間津井」氏があまりにも面白いからだ。

テレビ局を運営するにはスポンサーが必要と気付いたのび太たちは(ここらもドラミちゃんと一緒)商店街をまわって、

を見つける。
「パンと菓子間津井ベーカリー」
の恐らく店長である彼は

「はやってる店はだめだよ」
「なるべくひまそうな店を探そう」

と言うのび太とドラえもんのお眼鏡にかない、ボロボロの店の軒先でふんぞり返っているコレで登場。

↑繁盛するわけがない。いきなり食品関係でパイプはマズ過ぎるし、ポケットに手を突っ込んで椅子に座って、しかもサンダル。絶対にこんな店主が店番している店で買い物はしない。蜘蛛の巣はまだしも、継ぎはぎの入った服に何故か蝶ネクタイと言うズレズレのセンスがもう・・・
唖然としか形容の仕様のないのび太とドラえもんのツーショットもかなり笑えます(のび太の開いた手も、ちょっと斜めのポーズも)。

登場1コマ目でガッチリと掴んだ間津井氏(実はこの人正式名称無いんで、勝手に名付けてます)は、こんな表情とは裏腹にスポンサーに大乗気。

しかし、「ぜひスポンサーにしてくれ」と言い切ったくせに、すかさずコレ

↑コラコラ。スポンサーが何か全然判ってません。まあつぶれる寸前の店を経営しているぐらいですから、そんなもんでしょう。間津井氏はパイプと言う小道具からして、実はF氏のドッペルゲンガー的な役割を担っているわけですが、それは後述。

金を500円(たったの! でもお札なのが時代を感じさせます)だけ渡した間津井氏。普通ならそのまま消えるキャラですが、当然F氏もこの話も普通ではないので、唐突にのび太の部屋に上がり込んできます。

映写機持って。

ここからが彼の独壇場であり、この話を取り上げた最大のポイント。

8ミリの超大作を用意してきた間津井氏は、完全にF氏の分身としてめちゃくちゃしてくれます。ホント脇役がこれだけ目立って笑わせる話も珍しい。

↑「どんな映画?」とあぐらかいて訊くのび太が既に不信感バリバリなのがこれからの展開を匂わせます。家に入ってきた描写が何もない間津井氏の行動も、それに対して文句一つ言わない所も面白い。

実に全く変でリアルな困った大人、を体現するこの間津井氏は、スポンサーになった時点で自分の映画を上映する事が前提だったのがアリアリ。そういう町のアマチュア映像作家像を、何ともくすぐったい程微妙に描ききるF氏。絶対に腹の中でこういう願望が合ったに違いなし。

そう考えてみると、間津井氏に限らずドラえもんの脇役連中は、例のスネ夫の従兄弟スネ吉をはじめ、F氏のアナザーサイドを色濃く反映している。

ただ、間津井氏は見た目もなんだか似てるだけでなく、身勝手だったりケチだったりズレた芸術指向だったりと、

「ホントのところどうなの?」

と言いたくなるぐらい、F氏の裏側を勘ぐりたくなるような描写を、ことごとく垣間見せまくる。

そしていよいよ間津井氏渾身の映画が上映されるのだが、解説も当然のように自分。

↑曰く「8ミリ芸術大作」! 5時間ですよ、5時間。ソ連の映画じゃないんですから。絶対に観たくない。しかも、このパイプ持って鼻息荒く、顔面横線でまくしたてる間津井氏。もう完全に引きますよ実際にいたら。だって自分で作った映画の説明を、自分が全部口で言っちゃってんの。しかも芸術映画だって言い切ってるし。ヤケにここのネームだけ漢字が多いのも凄く雰囲気が出ていて二重丸。「喜び」「悩み」「悲しみ」「怒り」って喜怒哀楽ですもんね、要するに。いやあ、最高ですココら。誰でも判る事を小難しく表現するのが芸術大作。多分オスカー確実。

と言うわけで、映写スタート。もう、とりあえず観てくださいよ、コレ

↑完璧に芸術。それ以上でもそれ以下でもないです。とにかく大笑い。フニャコ氏でなく、のび太がちゃんと名台詞の変形「なんだこれ」を言ってくれるのも実にナイス。「なんだこれ」以外に感想あり得ない。1コマ目の満面の笑み。2コマ目の悩み。3コマ目の悲しみ。どのコマもイカんですよ。観れば観るほど笑いがこみ上げます。コレも戻れない系ですよねえ。もう「なんだこれ」の極み。

これを観たのび太の感想と、間津井氏の意見がコレ。

↑のび太真顔です。本気で信じられないんでしょうね。5時間はのび太の中の時間概念に無いんでしょうね恐らく。「こんなのが」が「なんだこれ」に続いて素晴らしい形容です。「そう!」「芸術的だろう」って間津井氏の得意満面の顔。狂ってます絶対に。

そして、よく見るとコレ

↑残っていた「怒り」ですね。ぬかりなし!さすが芸術。しっかりしてます。コレ本気で見せられたら笑えないけど、ホントに4コマだけだと笑えるなあ。

ドラミちゃん版の次の年に発表された話なので、恐らくF氏の中でも「何か違う要素を」ってのが合ったんでしょうね。
それが恐らく彼に結実しているんだと思うんですけど、「どうせなら」感が凄くて、こういう時のちょっと油断しちゃった時のF氏って無敵ですよね。アドリブと言うか暴走と言うか、とめどないです。

そして、いよいよ視聴率が0%になって(極端!)、困惑した間津井氏は言うに事欠いて

↑無茶苦茶です。
「なんのため」ってのがポイントで、彼は自分の店の宣伝のためじゃないんですよね。自分の映画を見せるためにスポンサーをしているわけです。そりゃ視聴率がさがれば納得できない。でもあのボロ店にホント未練なさそうというか、芸術家特有の自己中心性が色濃く出ていて、素晴らしい台詞です。
しかし、500円を大金って。しかも返せって言ってますよ。

挙げ句に正直な意見を言ったのび太たちを断じてのコレ

↑芸術家の見本みたいな人ですね。「ぼくの芸術」ですからね。相変わらず勝手に部屋まで上がり込んでる(不用心な)スネ夫の哀れみに満ちた眼が素晴らしいですよ。後ろに回した左手も。コレ言われたらどうしようもないよね。

ここからスネ夫の仕切るドッキリ番組が始まって、何時もの調子に戻る(?)訳ですが、間津井氏はそれでものび太の部屋にドラえもんと二人で居座って(脇役にしてはホント珍しい待遇)、番組をちゃんと見守ってます。

しかし、ジャイアンのリサイタル(お約束)が始まるくだりで、またまた彼の普通じゃないブリが出てきます。

↑一人だけ平気なツラして視聴率を気にしてます。芸術家同士なので大丈夫なんでしょうね。でも、視聴率気にしても宣伝相変わらずしてませんがね。

そして辛抱堪らずにこのヒステリックな要求。

「なくても返せっ」。2コマとも頭噴火しちゃってるんですが、ホント5百円は彼には大金だったんですね。まああの店ですもんね。

それにしてもこれだけ一話まるまる出ずっぱりな脇キャラも凄いですよね。しかもこれっきりです彼は。まあ何度も出せるキャラじゃないんですが、勿体ないです。

まあ、話は直ぐにドラミちゃんと同じパターンで全員集合しちゃって終わりなんですが(こういう所テキトーだなあ)、もう彼と彼の映画だけで充分ドラミちゃん版とは一線を画する異様な話ですよコレは。

フと思ったんですが、彼は絶対にみどりヶ丘シネサークルの一員ですよね。異色短編「ある日・・・・」の。

まあそのサークルに居たのなら間違いなく佐久間氏に一刀両断されてるでしょうがね。

↑ってな具合に。

それにしてもアレですね。てんとう虫版に入っていない話はアンバランスと言うか、作品として崩れてる話が結構あります。
単純に読む方がてんとう虫版に馴れすぎてるからなのかもしれないですが、やっぱりてんとう虫版って考えて収録しているんだなとちょっと思いますね。

ただやっぱり絶版なのは良くないので、この藤子不二雄ランドは是非復刻するか、改めて全集を出すべきですよ。

ではでは。

【追記】

いうまでもなく現在は大全集で普通に読めます! しかし、こういう「自分の趣味」の領域になると、F先生すぐにマックス振り切れるから最高です。

 

 

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書いた人

ビューティー・デヴァイセス(元ミラー貝入)

映画や漫画やゲームが大好きです。 [詳細]