変ドラ・ページ~なんだ、こりゃ?~

ドラえもんをはじめとする藤子・F・不二雄作品の少し変な魅力をたっぷりとお届けします。

【帰ってきた変ドラ】『スペシャル企画~ものはいいよう三部作~』

time 2017/01/30

【帰ってきた変ドラ】『スペシャル企画~ものはいいよう三部作~』

変ドラスペシャル

「ものはいいよう三部作」

ドラえもんは、「うそつき」ネタとか、「屁理屈」ネタとか、「ヲタク知識」ネタの様に、画とか道具とかの面白さに加えて、「ネーム」の持つ面白さも相当なモノがあります。

これはF氏の豊富な語彙や、卓抜した表現力を持ってして可能になる、ある種変化球とでも言うべき面白ネタだと思うんですが、中でも個人的に猛烈に好きなのが、今回集めた三作。

簡単に言ってしまえば「いいくるめ」系、ちょっと穿った見方をすれば「洗脳」系ですか。

とにかく、のび太たちは、時には教祖的に、時には信者的に、やたらと道具に「いいくるめられて」引き回されるんですね。

まあ、スラップスティックなドタバタの文系版といいますか。

ところが、そういう時のF氏は何だか知らないんですが、宿っちゃうですよね。

もう、自身も洗脳されちゃってると言うか、制御が効かなくなってるんですよね。

それぐらいの面白さだというコトなんですが、そのなんというか、ギリギリいっぱいの淵までイッちゃっててですね(いや、越えちゃってるかも)、どうにもこうにも止まらない魅力に溢れまくってます。

と言うわけで簡単な特集ですが、

「ものはいいよう三部作」

をお送りします。

先ずは有名な

「おせじ口べに」

記念すべきてんとう虫コミック1巻に収められた、妙な傑作です。

のび太が「感じたままに」感想をのべたら、パパ・ママにひっぱたかれるという、猛烈なオープニング(しかし、体罰描写自体は無いという素晴らしい演出)で始まる本作。

「口べた」は損をする。と言う、「ニクメナイン」に通じるような、人間界の嫌な真理を何気なくテーマにしている作品で、要するに「おせじ口べに」と言う口紅を塗ると、おせじが上手くなると言う、あまりにもドライというか、大人びたネタではある。

↑大体イキナリのび太が半笑いで口紅を塗りたくり、不気味に微笑むあたりからして異常。

「筋とは無関係に笑える描写」という、変ドラ要素を大いに満たす展開。

そしてイザおせじ攻勢が始まるや、F氏がノリ始める(勿論ズレた方向に)

取りあえずママに

「どうして女優さんにならなかったの。」

だの

「そんなにきれいなのに。」

と、

終始のび太が「真顔」で力説。

敵を欺くには味方からと言うが、完璧に自ら信じ込んでます。凄い口べにパワー。

で、何が面白いって、パパが来てから。

↑それはもう「おせじ」じゃないだろう、「態度」じゃん! 全身全霊のおせじ。もう、口八丁手八丁どころか、身体全体でおせじアピール。口べに一つで身体までおせじの虜。

で、更に素晴らしいのはおせじを実際言うのはココまでと言うこと。

だって、あとはコレだもん

↑どはははは。ペラペラのみもう、台詞を超越した世辞であるペラペラ。のび太、相当なコト言ってるらしく、お父さんの「参った」顔やポーズ(後ろ頭掻きが最高)が、絶品。ホント、パパ見てるだけでこのコマは相当イケる。

「おせじはよせというのに」

なんて言っときながら、次のコマではドラえもんまで波口で閉口もんの、おせじ漬けと言うだらしなさ。

パパってこういう時のイジられ加減は最高です。

そして、そこはパターン漫画(作者談)の王道ですから、当然いつものように町へ繰り出すわけです。

そして、おせじ教の布教活動をへての、骨抜き描写がコレ

↑しずちゃんポイント高い。「また、ほめてね。」! なんかおせじであることを納得した上での中毒発言というか、ここはやはり「ご高説賜る」系と捉える方が面白い。イエスものび太も同レベル。すなわち、イエスの話も「おせじ」?

そして、「このまちで、いちばんの気むずかしや」(どういうんだソレ)のおじいさんを、誉め殺し。

↑またペラペラのみ! もう、ペラペラ言ってりゃいいんですよ、世の中は。世は全部ペラペラっす。

ホントF氏のこういうテクニックには舌を巻きます。

省略演出の極みであり、それが完璧にギャグとして実に有効に作用している様は圧巻のペラペラ。

さあ、準備運動は出来たと思いますので、今回の特集を思い立った作品

「いたわりロボット」

いきましょう。

↑白ドラ? と言うほどの白けブリは扉絵から。ドラえもんの存在自体に一石を投じるような問題作なんですが、単純にF氏のレトリック・マジックに酔いましょう。

こちら残念ながらてんとう虫コミックには収録されておらず、FFランドにしか収録されていないようです。

 

当然現在は藤子・F・大全集という強い味方がありますので、こちらの4巻にちゃんと収録されています。

今回国会図書館で別の話を目的に読んでいたら、とんだ伏兵だったという訳で、大爆笑(を堪えた)

発端からして妙さMAXで、あやとりの「銀河」(あやとり世界チャンピオン・グレート・フィンガーのフィニッシュでもある、有名な技……技?)を遂に開発したのび太は、

「これこそ21世紀のあやとりだ」(下手な映画のコピーみたいで大変よろしい)

と、大興奮。

するのはいいんだけど、何故かソレを

「パパー」

と突っ走って見せに行くや、居間で転んで湯飲みを撃破。

どうしてパパに見せに行ったのかは知らないが、とにかくこっぴどく怒られる。

↑この擬音傑作過ぎます。「ぐんなり」だなんて、それ以外ない。ホントF氏は擬音の天才だ。

「もうシッチャカメッチャカ」おこられたそうで、さすがののび太も落ち込む。

「この世で最低の男さ」

とまで、珍しく男っぽい落ち込みを見せるのび太。
(まあ、一週間で3個もコワしたそうなので、怒られて当たり前)

そこでドラえもんが出来もしないくせに笑顔で慰め。

↑ド下手ですな。全然慰めてない。火に油を注ぐというか、泣きっ面にハチを煽るだけ煽っている感じ。「下には下」って抜群にネガティブな表現で良い。

でまあ、ドラえもんも流石に反省したのか、3口でコレ

↑珍しく自覚症状があります。でも顔は嘘をつけないようで、全然どうでもいい顔です。そもそも「口がへた」ってことは本気で慰める気なんて全然鼻から無いことの証左。しょせんドラえもんに限らず、慰めるという行為は相手の気持ちの代弁行為でしかないと言う哀しい現実を、このドラえもんの言動は物語る。ってそんなたいそうなモンでもないけど。

そして他力本願。

「いたわりロボット」

と言う、パーマンのコピーロボットひものゆうれいを合わせたような道具を取り出す。

優しいお姉さんに化けて、ありとあらゆる表現を駆使し、ポジティブ・シンキングと呼ぶのも生易しいほどの、絶対指向な慰めを披露する「いたわりロボット」。

こいつがとにかく凄(ヤバ)過ぎる。

その華麗なる慰めマジックと来たら圧巻。

一言一句脳に刻み付けて明日から使いましょう!

「気をつけるひつようないわよ」
↑(言い切る)
「ちいさなことにこせこせしないでのんびりしているところが、のびちゃんのいいとこなんだから」

↑(ものはいいよう)
「毎日買いたての新せんな茶わんでお茶がのめるなんてすばらしいじゃない 」
↑(新鮮な茶碗って何?)

挙げ句に

「ちゃわんわるのがいいことみたい」

と、すっかり洗脳されたのび太にとどめの一言

「いいことよ、もちろん!」

(もちろん! ってオイ)

しかも、こんなもんじゃないです。

「男らしいってそんなにいいことかしら」
「そんな人たちが戦争なんかおこすのよ」

(茶わんの話が戦争論にまで発展。これぞFマジック)

もうここまでくると、F先生もおかしくなってきてコレ

支離滅!裂!レトリックの極み。全部言いっぱなし。全部「読点」止め。加えて聞き惚れてその気ののび太の顔が抜群。危ない危ない。「世界平和」とまで言います。茶わん→戦争→世界平和。OK。「あなたこそ、」がまったく意味を成していないのに、強烈にいい言葉に転じている悪魔のトリック!!

ここでドラえもんが口ベタで一言「もっともらしくきこえるだろう」と来る。全然駄目だありゃ。

もう、完全に信者になっているのび太は頑として

「その人はほんとのことしかいわない人だよ」

と、一丁上がり。

ロボットだって言ってるのに(しかも縮むの見てるのに)、全然疑問にも思わぬ口調で「人」呼ばわりですからね。のび太、非常に危ない。

しかも、曲解して

ぼくがそんなたいしたじんぶつだったとは初めて知った」

と鼻息混じりに暴走開始。

ところがそうは問屋がおろさない。

↑怒られた方がマシ。我が子に「半人前」は百歩譲っていいとして、「くれぐれも」はマズイ。またママの諦観漂う表情とポーズが抜群で、のび太の表情が哀れ極まる。どういう漫画だよコレ。

どんどん夢も希望もなくなる、らしくないが、実は実にらしいとも言える展開を見せて、案の定のび太は「いたわりロボ」の虜とになる。もうこのパターンたまらない。

↑のび太の顔。もうダメ人間大将決定。いや、ダメ人間王国の国王ですな。ロボも握り拳が素晴らしい。微妙にママと対比した同じ構図とポーズなんですよねコレ。それ故にのび太の表情が、やはり、なんとも……

「のびのびと、」
「大いに遊んで、」
「おおらかな、」
「ゆたかな人間に。」

はちゃめちゃに面白い。

ただの励ましを四つの噴出しに分けただけでコレ。

しっかし、教育思想にまで一石を投じかねない、言葉だけの洗脳教育が強烈にグサグサきますが、そんなのどうでもいいぐらい笑えるのでオールOKですよね。

何はなくとも、のび太のですよね。

ここからは上と同じ逆パターンで、外へ繰り出すや、再び馬鹿にされて落ち込み。

こりないのび太は、すがるすがる。

↑やっぱり最後は破綻ですな。その場しのぎの極めつけ。「のびちゃんのしてることにまちがいはないのよ」とくる。ドラえもんもこんな道具出すなよ。

いやあ、恐ろしくて笑えない展開ですが、とどめにコレ

↑最悪です。本気でホームレスの人とかはこうやって自己欺瞞の末にああなっているんでしょうな。いやあ、レベル高いっす。まあ、単純に笑えるってのも凄いんですがやっぱり。のび太ってホント紙一重なんでしょうね。

この未来をタイムテレビで見せられたのび太は、「こんなしあわせはいやだよう」と気付く。

GOOD!

これだけ啓蒙性のある話があろうか? いやない!

これも教科書に載ってもいいドラえもん話ですな。

まあ、ちょいと笑えない流れになっていますが、次はそんな心配を蹴散らすような超爆笑作、

 

「うそつきかがみ」

 

取りあえずこの話は、かなりの人が読んでいるだろうし、覚えているだろうし、笑っているでしょうから、細かい話とかはどうでもいいんですよ。

話ったって、かがみが嘘ついて、のび太たちを洗脳するだけですから。

とにかくその爆笑ブリは実際に見ていただくのが一番。

↑でました!「~かしら」! のび口調の代表格ですが、才野&満賀もしょっちゅう使ってます。いやあ、加えてのび太の顔と手つきがキてますかしら。(←誤用)

で、この話は、何故か微妙にコマの枠線が太いんですよ。妙にそこら辺りも違和感あるというか、A氏へのデジャブを感じますね。

なんでこんなものをドラえもんは部屋に置いていたのかは、相変わらず永遠の謎ですが、当然のび太はあっけなくかがみシンパと化す(懲りないね、しかし)

↑断言。そして、中毒。もうわかりやすすぎと言うか、ちょっとネジ外れすぎ。ここら辺りのゆるゆるのび太は初期のドラえもんの大きな魅力の一つですよね。「ちがう!!」ってのも良いが、「真実のすがた」ってのが最高です。両握りこぶしでね。

ドラえもんのこの手の(まあ、このページ全体で取り上げられる)作品の多くは、ある意味読者を置いてけぼりにする感覚がある。ついていけないというか……、登場人物がエキセントリック過ぎて、客観的に爆笑してしまうんですね。ワザとかどうかは知りませんが、そうでない作品も多いですから、天才的な意図なんでしょうね……いや、そりゃないか。

で、その感覚がスパークする典型が、

部屋の中でボーリングするドラえもん。

無茶苦茶ですよコレ。

なんで部屋の中でボーリング?

鏡を割らなきゃ行けない展開→ボーリング。

こんな公式はアインシュタインも真っ青。
(まあ、アインシュタインは答えが先に浮かんで、その式を説明できなかったそうですが)

そしてまんまと再び世に現れるかがみ教祖は、お約束通りにコレ

↑多発する神の言葉「世界一」の一つがコレ。「そうかもねえ……」ってのもなかなかママも自信過剰な言葉です。

この三部作のイってる部分ってのは、道具は登場人物の心理を左右しているだけで、他には何も手を下していない所ですよね。

みんな薬でも呑んだかのように、一瞬で虜になっちゃうのが共通していて可笑しい。これもいわゆるカリカチュアライズですか?

そして上級信者ののび太は早速かがみ教祖をお側へ。

↑いやあ、ここらのドアをガチャってのは、なんとも閉鎖的というか、誉められる=恥じらい。と言う感じを表現していますね。男の子だって誉められたいんだ。しっかし、のび太は欲望丸出しでいいです。

でもやることはコレ

↑うはあ、のび太骨抜き。まあ、誉められて悪い気がしない人はいないんですが、もう疑問符ゼロで陶酔状態なのが素晴らしい。正座と開いた手も効果抜群。

そして、ここからが「うそつきかがみ」仰天モノの面白さ。

つまりうそで信者を無茶苦茶にもてあそぶ。

ここらあたりの「ものはいいよう」ブリはすこぶる素晴らしい。

お約束の

「目はたがいちがいに」

も大爆笑。

そして、気が狂ってしまったのび太は、気が狂った爆笑フェイスで、しずちゃん家へ。

押さえ切れぬ妄想との葛藤がコレ

↑「理想的男性像」をしずちゃんに見せるコトを決意したのび太の夢想。2コマ目の一瞬ゆるむくだりで死ぬほど笑おう。勿論最後の「ムス!」も正直に笑おう。

ムス!

でも、これホントA氏が噛んでそうな気がしないでもないけど、やっぱり単独でもコレはF氏の所行だという気も充分するから恐い。やっぱり二人で一人の藤子不二雄。何時も心に満賀ありき。

そして大爆笑、しずちゃんママの一言(勿論真顔)

↑いやあ、分かってますよ、しずちゃんママ。この顔にこのツッコミは完璧。またのび太も分かっていて、表情キープ

そして波状攻撃の始まり。

↑「フガ」「ムス!」!! 声に出してますよ、すっかり。擬音を喋るなっての。

そして、二人は出会った。

が、

↑当然だ。うん、当然。笑うなと言う方が無理です。にしても、二人とも心底大爆笑ですね。F氏は旨そうな描写とか、不味そうな描写とか、あくどい描写とか、とにかく感情表現がすこぶる上手い人ですが、流石ギャグマンガ家の面目躍如とでもいうべき、爆笑描写です。

ホント、友達があの顔つきで現れて、いきなり「ムス!」とか言われた日には、腹よじ切れちゃいますよ。

誰にも理解されないのなら、自分自身がよければそれでよい。それこそ真実である。

そう、信じるモノは救われるのだ(嘘)。

うそつきかがみ教は裏山に信者を集めて、有り難いお言葉。

↑やっぱり、ここはスネ夫ですな。唐突に出てきて、その表情一つで持っていってます。彼だけは「自己肯定」の確認に過ぎないんでしょうね。満足そうな笑顔です。しずちゃんものび太も、強烈なダメぶりですから。

それにしても、シンデレラの「かがみよかがみ」からきてるアイデアなんでしょうが、どうしてこんな気の狂ったストーリーに発展してしまうんでしょうね、実際。

「かがみがうそをつく」と言うナンセンスなネタは、他にどうとでも面白く料理出来るはずなのに、顔面ギャグを立脚させる為に「洗脳」「中毒」などの要素をからめて来るんでしょうか。

ホントF氏のダークサイドが産み出した、最高の真っ黒爆笑ギャグ巨編最高の一本。

と言うわけで、他にも色々と特集したいネタは山ほどあるのに、衝動的にこんな三部作をお送りしましたが、いかがだったでしょうか。

「うそつきかがみ」はともかくとして、上の二作ってば、大好きなんだけど一本で取り上げるにはポイントがちょっと少なかったので、まとめてみました。

「おせじ口べに」は、「悪口べに」と言う大爆笑の道具も出てきて、普段目立たないパパ(だけど、個人的に最も美味しいキャラの一人だと思ってます)が、更にイジくられまくるという珍作なので、是非本編も読み返して笑って欲しいですね。

取りあえず月刊誌4冊とか6冊を抱え込んでの、乱作状態が産み出す、F氏のナチュラルハイ的思いつきネタが堪能出来る逸品であることは間違いないですよね。

最後にのび太最高のダメぶりであるコレ

↑懲りないなあ、ホント。

ではでは。

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書いた人

ビューティー・デヴァイセス(元ミラー貝入)

映画や漫画やゲームが大好きです。 [詳細]