緊急特集!
新オバケのQ太郎-第3巻
てんとう虫コミック版第38刷
壮絶な面白さ
新オバケのQ太郎のてんとう虫版が3巻だけ抜けていたので、yahooオークションにて「ウルトラB」の2巻と一緒に落札しました。
これで全4巻揃いました。勿論まだ未収録がたくさんあるし、FFランド版も集めたいのですが、取りあえず財政的に一番手の届くシリーズだったのでひとまず嬉しい。
が、
今回購入した3巻。読み始めて一話目から、腹筋がどうかしてしまうかと思うほどの凄まじい面白さ。
もちろん他の巻もそれぞれ最高に面白いのですが、どういうわけだか3巻に限って他の巻を読んだときとは桁違いの密度。
その面白さが少しでも伝わればと思い、今回ちょっと別枠で特集してみました。
ということは、とりあえずここではどうでもよくてですね。一度終わった『オバケのQ太郎』が再開されることになり、また人間界にやってくる『新オバケのQ太郎』は、それはもう恐ろしいほどF先生のギャグ漫画家としての破壊力が問答無用に発揮されている作品なのです。そんな腹が捩れるほど面白いギャグの数々が濃縮されたこの3巻。とくとご覧あれ。
第一話目のタイトルは
「秘密日記」
この話からいきなりギアがハイ。
先ずキャラ設定的に終始「白け顔」の多いU子さんに、突然熱烈なラブコールを送ろうとするQちゃんが、恥ずかしさのあまり口ごもってしまうと、それを突発的にU子さんが強引な曲解。
「とってもふとってるっての!」
「おてんばでいじわるだっての」
と、自意識過剰なのか何なのか分からないが、とにかくパラノイア寸前の言いがかりを付け始める。
そして、コレ
↑感情失禁までしながら、マウントポジションで袋叩きにするU子さん。同コマ(!)でいけしゃあしゃあと現れるや、いきなり「ミスオバケ」と抜群のドロンパ。この確信犯的ギャグがオバQでは連発&爆発。ズタボロのQちゃんと、お世辞をお世辞と自覚してのU子さんのなりふり構わないセリフも合わせて1ページ目で完全に虜。
「ちょ、ちょ、ちょっと面白すぎますよ」
と思う間もなく、話がコレ又まぎれもないF節!
キザくんの「秘密日記」作戦(秘密日記と称したノートにママへの誉め言葉を書き連ねて、こっそり読むであろう人間心理を逆手に取って難を逃れ&ご機嫌取りと言う素晴らし過ぎる生々しさ! これぞF!)に協力させられるQちゃんが、どんどん狂気の世界に陥る様を大爆笑で描ききってくれます。
絶句モノの上記作戦を聞いたQちゃんの感嘆セリフをとくとご覧じろ。
↑この言い回し! 口に出して言えない度100。説明セリフのかがみのような具体的さ! キザくんの陰惨な表情を蹴散らすQちゃんのセリフにすっかり魂を奪われてしまう。
しかも、この話にはまだまだ先がある。
U子さんのハートをこれで掴んでしまおうという(あそこまでされて)Qちゃんの純真さが胸を打つが、実験台として選ばれた正ちゃんがまんまとハマるやコレ
↑この極端ブリ! 完成されたギャグ美学がここで早くも全開状態。片膝をついた姿勢が止めどない暴走への予感大。
しかもこれを受けてご満悦のQちゃん曰く
「せいこううたがいなし。」
この言い回しがキモですキモ。
そして、Qちゃんの絶品としか形容のしようがない美辞麗句がコレ
↑舌を出すのは当然として、猛烈な重複表現が使いた過ぎ。
「ものすごくとってもひじょうにすばらしく」
言いてえええええ。自己の世界にほぼトランス状態で陥るQちゃんの背景効果がグルグルを含めて完璧。「ぼくは……ぼくは……」が完璧。
F氏の過剰誇張表現ネタは既にここに極まっていた。
しかもQちゃん自ら
「かきながらなみだがとめどなくながれる。」
と号泣してのイキっぷり。
しかし、秘密日記をあまりにもあからさまに読ませようとして破綻(どはははは)。
「男らしい女なんだからね」
と言う漢らし過ぎる捨てぜりふで、呆気なく轟沈したQちゃんは、入り方が凄まじかっただけに落ち込み方も凄まじく、どんどん狂気の世界へ。
「U子がなんだ。フンだ!」
と、ひとり相撲を大技で決めた挙げ句にドン引き疑いなしのコレ
↑「ひじょうにとってもすごくバカ」!!!!!!!
心のタガが外れた時、人は…じゃないオバケも鬼になる。このあまりにも面白い罵詈雑言の嵐の前にはオチなんてどうでもいい。涙目で怒り眉で、舌出して、正座して、公園の椅子で秘密悪童日記を書き殴るオバケの姿に全国のストーカー諸君は警鐘を受けるべきですな。
何はともあれ、合い言葉は
「ひじょうにとってもすごく」
「ものすごくとってもひじょうにすばらしく」
ですねえ。もう「ハイスクール奇面組」の修学旅行での怪談
「ある夜の晩はナイトだった」
に匹敵する素晴らしいレトリックと断言できる。
ところがまだまだあるのがこの3巻の素晴らしい所です。
続く
「パーッとつかっちゃえ」
も勢いはまるで衰えない。
「二千六百十一円」
と言う、ひじょうにとってもすごくキリの悪い金額の貯蓄を唐突に喜ぶQちゃん。
誰もがあぶく銭を貰うと経験するコレでフィーバー
↑この気持ち、あまりにもわかり過ぎる。社会人ならボーナス。子供ならお年玉。とにかく分不相応な身銭は身を滅ぼす。「日本一の」と言う形容もまるで当人には大袈裟ではないところが実感有りすぎ。2コマ使っての喜びのタメにのび太の原型を見る思い。
これも致し方なし。
↑パタパタなんて全然怪しくないのに、ここまでお尻でジャンプするのは絶対にギシンアンキ飲んでますQちゃん。
ほうきでどつかれそうになる正ちゃんもやっかみ半分に説教をするが、まるで懲りないQちゃんは、おつかいを頼まれるやドロボーの心配に、これまたパラノイア状態でママへ食ってかかる。
そんなQちゃんへ、正ちゃん曰く
「どうかしてるぞ。」
ごもっとも。しかも
「人相までわるくなった」
だの
「持ちなれないものもつからだ。」
と言いたい放題。
とどめに
「金が人間をだめにするって、ほんとだな。」
と人差し指を立てて言い切る。
正座で聞いていたQちゃんすっかりビビって
「お、おいほんとかい。」
とくる。あんたオバケだあ。
それにしてもどうにもこうにもお金絡みの話だと筆が走るってのは、そうとう金絡みで色々体験して居るんでしょうかねえF先生。
で、正ちゃんの結論
「パーっとつかっちゃったら」
と言う自己愛に満ちた提案にすっかり乗せられるのがQちゃんの良いところ。
しかし、話がそうそう簡単に進まないところもF氏の凄いところで、急転直下インスタントラーメン(でた!)から、貧乏画家に話が移行する。
↑登場して一撃で善良だと分かる完璧なキャラデザイン。しかも「半ふくろ」と言うダイレクト過ぎる貧乏ブリ。王冠を死にものぐるいの形相でのび太と奪い合った画家に匹敵する(あっちはちょっと森安氏気味な顔だけど)。
見かねてラーメンをプレゼントしようとするが、受け取ることを潔しとしない貧乏画家さんは、自分の絵をラーメン代にするとQちゃんを連れて行く。
元高角三、佐倉十朗、野比のび助、などなど、芸術家たちの流れを立派に受け継ぐ名も無き彼の芸術理念をとくと拝聴すべし。
↑新築に際して飾りの絵を買いに来た成金丸出しのオヤジが、先入観というか俗物主義というか舶来崇拝主義というか(コレ違う)で、適当な入れ知恵を披露するのをとどめて。
ブランド志向に取り付かれた成金に対して、腕組みまでして頑と売ろうとしない画家としてのプライドが見事。
そこでとどめの一言がコレ
↑カッコイイ。コレですよコレ。魂を売っちゃいけません。ここんところを一歩進めた考え方を披露する魔美のパパも好きですけどね。
でまあ、ちょっと可哀相なのが、いつものF氏だったらここで、この人が成功するところでオチになるんですが、彼は志をよしとして頑張ろうで終わり。まあ、結果がゴールではない芸術道を見事に描いていると言えば言えますがね。
結局「お金をパーッと使っちゃおう」という当初の話はどうでもよくなって、この芸術家魂にF先生ももっていかれてしまっているのが面白いんですけどね。
もっとも抜け目なく、成金じじいがF先生十八番のツッコミ台詞「なんだ、こりゃ?」の関西弁バージョンを披露してくれます。
↑このエピソードは、Qちゃんも上述の「なに、これ?」という破壊力抜群のツッコミを披露していますので、お得感満点。
「車とダイヤとO次郎」
の巻では、Oちゃんの化ける能力を犯罪に使おうと、食べ物で買収する強盗二人組とのドタバタを描くが、Qちゃんの食べ物絡みの意地汚さが堪能できる逸品。
Oちゃんがチョコをもらったと聞くや
「にいさんのぶんは?」
無いと知るや
「しらない人にものをもらっちゃいけない」
と激怒。
Oちゃんの可愛さとQちゃんの食べ物欲が次々と笑いを連発して最高です。
「伸ちゃんと伸ちゃんと伸ちゃん」
も、身代わりコントの醍醐味を思う存分楽しませてくれますが、個人的見所としては、あまりにもA先生入っている伸ちゃんの描写と、ドロンパのコレ
↑お馴染みの三連発ギャグですが、「するといい、いや、ぜひすべきだ。」がつくづく良い感じのF節。
才野が「俺がお前にお世辞言ってどうする」と、満賀にかっちょよく言い放ってましたが、ホントの所どうなのよ?
そして、再び金絡みの傑作
「木佐くんのパパは世界一」
これまた凄くて、お年玉を多めに貰って、正ちゃんと二人揃ってご満悦のQちゃん。
「大金をもってると、心までひろくなるみたいだね」
「ああ、いいお正月だ」
そんな有頂天の二人の前に、ニタニタとキザくんが現れるや一万円を見せびらかす。
仰天した二人が手のひらを返したように「断固」とした決意でパパに値上げ交渉(こういうのホント良く描きますよねF氏)。
正ちゃんのパパものび太のパパと同じように逃げますが、こちらは技ありのコレ
↑逆ギレともとれる哄笑で暴走、十字目もばっちりで突っ走る。右コマでのQちゃんのくちびるにも大注目。
更に笑えるのが次のコレ
↑トイレでも高らかに笑うパパが最高。正ちゃんのリアルな一言も見事。
一万円をみせびらかすキザくんに子供達が妬み根性爆発させて、空き地でつるし上げにまで発展。
キザくんこれには激怒して曰く
「ほんとは、うらやましいんだろ」
と正論でクリア。
そこでハカセが一計を案じて、キザくんのパパを自分たちの親の前で表彰して偉業を讃え、それで自分たちの親の引っ込みをつかなくさせるという、信じられないような深層心理を巧みに計算に入れた作戦を実行に移す。さすがハカセ。
そこで登場する木佐パパが、たまったもんじゃない。
↑昼日中でもギャグのためなら風呂も辞さないのがF作品でのパパの使命。でもメガネは外そう。お風呂では。
そして、完璧にどうかしている木佐パパときたら、着るモノも着ずにガウン一枚で真冬の外へ出発。
↑「いささか」がF節。ゴム草履にガウンで町中を走る木佐パパが実にナイス。しかもその最中にこれだけの満足を得られるのだから幸せな人だ。
そして、クライマックスとも言うべき話
「大あばれ人魚姫」
こちらは、オバケたちのドタバタがトコトン楽しめる逸品。
正ちゃん達のお芝居の稽古に感化されたQちゃんたちはドロンパの提案で、自分たちもお芝居をしようと画策。
「ジョージ・ワシントン伝」→ドロンパ(渋い)
「姿三四郎」→U子
「ウルトラ仮面」→Qちゃん
「バケラッタ(桃太郎)」→Oちゃん
てんでバラバラだが、それぞれ見事にらしい作品を選んでいるところが細かい。
結局P子の提案した「人魚姫」に落ち着くが、F氏はやたらと人魚姫が好きなようだ。
皆が魚に化けるが、一人化けられないQちゃんが裾を縛って提灯アンコウを披露する所からして笑いの火ぶたは切られる。
人魚姫に扮したU子さんが化けるや、命知らずのコレ
↑淡々と凄いことを言い放つ四人だが、中でも両端の二人が凄い。「ぶきみ」の一言もかなりの自殺的発言だが、特筆すべきはOちゃん。「ダメラッタ」は虐殺モノ。邪気がないだけに表情の絶妙さと相まって極悪。
行きがかり上演出家の立場になるドロンパが、終始振り回されて良い味だしまくりなのだが、肝心の所で見事に白けているのも必見。
ホントここだけの話、オバQの白Q含有率は並大抵じゃない。好きあらば誰かが白けてます。
勿論最後は破綻してコレ
↑てんでに最初の願望通りの芝居を始めるオバケたちだが、中でもP子さんの「それでいいの?」としか言いようがないパンチパーマと、完璧に美味しいところを持っていく白けたドロンパのワシントンがお見事です。
まあ、他にもどれもこれも間違いなく爆笑できる作品揃いなんですが、最後にとんでもないのがあるんで、それで締めます。
それがこれ
「U子のプレゼント」
えんぴつくずが溜まったU子さん、溜まったソレを面白半分に包装して、Qちゃんにプレゼント。(発端からして狂ってます)
すっかり舞い上がったQちゃんはあれこれと話を大きくして、異常なまでの狂喜乱舞。
論より証拠のコレ
↑このF氏専売特許の互い違い目の連発&舌だしが見事な伏線であることよ。
そして、遂にそれを聞かされたU子さんが、正ちゃん達にえんぴつくずの事をうち明けるや、他人事とは思えない程のカンカンさで脅される。
さあ、コレ
↑一つ目。
↑二つ目。
↑三つ目!!きちがい三段論法!!!
そしてその結果が、世にも凄まじいコレ!!!
↑永久保存版ですね。キチガイとはまさにコレとも言うべき白眉です。
しかも刃物!
「どうしましょ」2連発どころじゃない、U子さんの恐怖面が凄いインパクトだが、そりゃ当然というきちがいQちゃんのビジュアルがもう……
復刻の際ここんところがどうなるのか、実は一番の見所かも知れないですな。
この話、結構凄いストーリーテリングも堪能できるので、本編も必読なんですが、これまた普通に本屋さんで売っていないのがなんとも痛い。
ただ、何とかして手に入れる価値は多いにありとだけ書いておきます。
と言うわけで、支離滅裂に特集した今回のオバQ編ですが、ますます「オバケのQ太郎」の復刻熱が高まりましたよ。ホントに復刻してほしいですね。
もうとにかく「ものすごくとってもひじょうにすばらしく」面白いんですから。
と言うわけでおまけ
↑これもF節。
ではでは。
【追記】
『新オバケのQ太郎』が大傑作であることは論をまたないんですが、本文にもあるように当時は長らく絶版状態で普通に本屋さんで買えない時期でした。現在は当然のように大全集にて復刻しており、いつでも読める状態になっている喜ばしい状況です。ところが、ここでも取り上げた『U子のプレゼント』での例の三段活用。大全集の2巻に収録されましたが、当然といいますか、当たり前といいますか、台詞は修正されています。
「かわいそうに、Qちゃんたら心底からよろこんでるよ。」
「あんなによろこでいるということは……、もしもそれがうらぎられたら……。」
「きっとめちゃくちゃにおこるぜ。」
という感じ。
弁護するわけではありませんが、見事に該当の言葉を消して、違和感無いよう最低限の変更による台詞回しになっています。ただ、まあ、「めちゃくちゃにおこる」という形容からすると、特に変更されていないあのQちゃんの激怒ブリには似つかわしくないってのが、なんともモヤモヤしますけどね。
ともあれ、『新オバケのQ太郎』はF先生のギャグ作家としての一つの頂点を形成していることは間違いなく、ここで上がったボルテージを見事に昇華した「中期ドラえもん」につながっているんだと思います。
ではでは。
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