真・恐ドラ これが本当の宇宙人の正体だ!! てんとう虫コミック14巻より ずばりコレっすよ。 「ドラえもん」てんとう虫コミックス版14巻(小学館)144ページより ↑恐すぎるっての。結構皆さんの中にもトラウマになっているんじゃないでしょうか。 どうしてこれが恐ドラに入っていないのかと、疑問に思う方も多かったと思います。それには理由がありまして、実は… その時14巻が見あたらなかった からです。はははは。 もう強烈ですよね、コレ。 話は結構珍しいパターンで、
スネ夫たちがある不気味な洋館が宇宙人の基地じゃないかと焦りながら話していると、のび太が「テレビのみすぎ」とか、実にらしくない事を言うのが発端です。(いつもなら大夢中になるタイプだろうに)
その時の 「だって常識で考えても、」 と言うときののび太の画が必見の爆笑さなので、是非皆さんお手元の14巻をひもときましょう。持ってない人は買いましょう。はははは。それぐらい笑えますから。 「ドラえもん」てんとう虫コミックス版14巻(小学館)140ページより ↑今回改めて読んだんですが、しずちゃんまで怒ってますからね。そりゃ、こんな指差し舌出しでバカにされたら誰でも怒るっての。それにしてものび太もらしくないことをしますよね。 まあ、そんなこんなでドラえもんと二人でその洋館を「無人たんさロケット」で調査するわけです。 もう洋館のデザインから何から、沸き立つような恐怖が全編たぎりっぱなしで、ホントあのとき14巻がなかったのが悔やまれます(カバーを付けていたので見つからなかったのがカラクリなんですけどね)。 「ドラえもん」てんとう虫コミックス版14巻(小学館)142ページより ↑フとこういうコマを入れてくるあたりの凄みですよね。下の草のベタとか縦線の不穏さがさすがの演出力。たったこれだけで怖い予兆がヒシヒシと伝わってきます。 トンチの効いたオチとか、その意外な正体とか、ジャイアン&スネ夫の独立した行動とか(宇宙人がらみだとこの二人はよくそうですが)、意外にドラえもんらしからぬ作劇が堪能できる傑作ですね。 他にも見るべきコマはあるんですが、やっぱりあの「宇宙人の写真」があまりにもショッキングなリアルさなので、充分と判断しました。 割とこれで喉の骨が取れた方がいらっしゃれば幸いですね。 ではでは。 |
真・恐ドラ2 「人食いハウス」 てんとう虫版14巻より 前回の「宇宙人の家?」を取り上げたときにも言及しましたが、「恐ドラ」を特集したときに14巻が見つからなかったのが今でも悔やまれます。 何故なら、「宇宙人の家?」と並んで、自分の中で大きなトラウマになっている話が載っていたからです。 その名も 「人食いハウス」 タイトルからして強烈な響きを持つこの作品、扉画はタイトルが笑ってしまうぐらいそぐわないドラの笑顔ですが、よく見ると、そのドラが身を乗り出しているハリボテハウス(紙細工のような粗末な代物。これでも道具か?)の中は不気味に黒い。 もうこの作品の本質をズバリあらわす素晴らしい扉画。 本当に怖い話というのは単純なほど良い。 この話も凄く簡単。
自分の部屋に鍵を付けたいとママに頼んだのび太だが、「一日中昼寝する気でしょう」とズバリ看破されて、自分の昼寝部屋を欲しがる。
導入部は、それだけ。 ぶつぶつ言いながら部屋に戻るのび太は部屋に入るなり転んでコレ 「ドラえもん」てんとう虫コミックス版14巻(小学館)132ページより ↑ドラえもんに決まってるのに、かなり具体的に文句を言うのび太が笑えますね。 そして、それを冷静に観るや、ずばり 「これは……。組み立て式の家じゃないか!」 アッという間に見抜くのも実に話が早くて良い。加えてコレ 「ドラえもん」てんとう虫コミックス版14巻(小学館)132ページより ↑これぞのび太の魅力の一つですよね。どんなことでも自分に都合良く解釈する。「口に出さなくても」って、デンジャラスです。あとちょっとでストーカー系ですよね。胸に手をあてて涙まで流して。きらきら光る星も効果満点です。こういうセンスはF氏の専売特許ですよね。 「ありがとう、ありがとう」 って、無茶苦茶面白いんですけど。 で、さっそく空き地に菩薩面でハウスを背負っていくのび太ですが、途中でジャイアン&スネ夫に出会う。そこで、どう考えても逆効果なドギマギ加減で言い訳するもんですから、当然二人につけられます。まあ、空き地に持っていこうって発想自体が先ずバレバレなのが凄いですよね。のび太I.Q低すぎます。 まあ、ここら辺りが実はこの話のキモなので、計算の内かもしれませんが。 そして、空き地で勝手に組みあがるハウスを観て、のび太がまた絶品としか言いようがない都合のいい解釈。 「ドラえもん」てんとう虫コミックス版14巻(小学館)133ページより ↑麻痺してますよね。完全に。両国の二畳間時代(まんが道参照)が相当のトラウマとして残っているのでしょうか。 この家を見てクーラーは百歩譲って、「百畳敷」って表現そのものの感覚暴走も凄いし、挙げ句に「プールなんか」とキますからねえ。いやあ、一人でコテンパンですよ。これほど夢見がちだと、ちょっとヤバいです。しかも一人でね。 そして、この家にフラフラ吸い込まれそうになるのを 「思わずさそいこまれそうになるほど、素晴らしい家だ。」 と、あくまでも譲らないベスト・マイ解釈。 「思わずさそいこまれそうに」ってかなり罠見破っているのにも関わらずですからねえ。漫才タイプの笑いである、ドラとの掛け合いも凄いもんがありますが、のび太は一人でも凄い……いや、一人の方が凄いと言えますね。さすが主人公。 で、観ていたジャイアンとスネ夫が、しずちゃんを呼びに行ったのび太の居ぬ間にハウスへ近づきます。ここら辺りのストーリーテリングはさすがF氏。 そして、ここからがいよいよこの絶対恐怖の怪異譚の始まりです。 「ドラえもん」てんとう虫コミックス版14巻(小学館)134ページより ↑このジャイアン理論も相当ですけど(さすが歴史に残る詭弁家)、ここで気になるのは、何で「レッド・ツェッペリン」のシャツを着ているかですよねえ。案外歌手として結構レベルの高い趣味の持ち主なのかも。まあ、実は飛行船マニアだったというどんでん返しもありそうなのが、F氏の恐いところですけどね。どっちにしろジャイアンには分不相応なシャツです。 ここではスネ夫が重要な役回りを演じていて素晴らしいです。 彼はちゃんとその罠に気付いているんですよね。そして警戒している。素晴らしい。 しかも、ジャイアンが入っていくのを 「しかし、ひとの家にかってに…」 と、地に足の着いたセリフを言います。こういう日常との立脚点と読者との橋渡しを果たす役回りをさせたら天下一のスネ夫が実に良い。 まあ、のび太がぴょこぴょこ建てた、こんなもんに警戒しすぎですけどね。 先に入ったジャイアンが出てこないで、心配になって入ってしまうスネ夫のコマから、空き地にポツンと残るハウスを俯瞰で捉えたコマが、異様に恐いんですよ。 シイン って擬音がヤバい。 耳鳴りがしそうな無音ってあるじゃないですか。しかも生活ノイズが聞こえてしかるべき真っ昼間の空き地でシインですからね。恐いですよコレは。 ここで場面変わってのび太の部屋に戻ってくるドラえもんにつなげるのも実に抜群のセンスです。 でもコレ 「ドラえもん」てんとう虫コミックス版14巻(小学館)135ページより ↑ここまで驚くなら何故部屋に置きっぱなしにするんでしょうねえ。もうホントこのクセ治さないとドラえもん。でも治すと話が殆ど成り立たないので、確信犯でしょうかねえ。でも目が互い違いなのでそれもどうかと……。一本足のようですね、このポーズ。 そして、一方のび太がしずちゃんをハウスに誘いにくる場面。どうでもいいですけど、のび太ってしずちゃんをすぐに誘いますよね。同棲願望強いですよねえ。 ところが、しずちゃんも強者ですからねえ。迷わずコレ 「ドラえもん」てんとう虫コミックス版14巻(小学館)135ページより ↑大喜びで誘いに来たのび太に向かって、真顔でイキナリ「人をたべちゃう家の映画」の話を始めるのはいかがなものか。実はかなり嫌っているんでしょうかね。水をさすどころじゃないと思うんですが、それをまじめに聞くのび太も良いヤツです。この二人良い夫婦になりますよ。 ここまでマジメに聴くんですから。 「ドラえもん」てんとう虫コミックス版14巻(小学館)135ページより ↑でも、何気に胸は触るわ、スカートを下ろそうとするはで、外さないのものび太です。焦りつつも、身体は正直ってところですか。 ここでいよいよハウスに次々と人が入っていく訳です。省略演出と山場を心得た素晴らしい構成力。 しっかし、あの家に牛乳の受注に行ったり、新聞勧誘をしたりと、かなり無茶な展開も笑えますがね。野球のボールを取りに来た少年達がドカドカって入っちゃうあたりの肥大さが恐いです。 ここら辺りは傑作テレビ・シリーズの「トワイライト・ゾーン(邦題ミステリー・ゾーン)」何かのムードにかなり近い感じです。リチャード・マチスンに負けてないですね。(マチスンは異色短編「流血鬼」でもモチーフにされたアメリカの作家。そのテイストはまさにF氏の異色短編の恐怖系に色濃く反映されています) で、とどめのコレ 「ドラえもん」てんとう虫コミックス版14巻(小学館)136ページより ↑これですよ、コレ。コレが子どものボクの心に強烈なトラウマになって残るコマです。この太陽と真っ黒な雑草を入れ込んだ凄い構図。こういうのを画力と言わずして何というのでしょうか。いや、漫画力でしょうか。画で全てを表現するこの素晴らしさ。F氏はこういう的確な構図のコマをバッチリ入れてくるので何度読んでも発見が有るんですよね。何故子どもの頃自分がこのコマで恐怖を刷り込まれるのか。太陽がさんさんと輝けば輝くほど影が濃くなる訳で、そのコントラストがこの恐怖譚のクライマックスをあっさりと活写している。 夜の暗闇が恐いのは原始的に刷り込まれている動物的な本能に根ざしている訳ですが、ボクは昼間も条件付けで恐いと感じることが多々あります。 だあれも居ないシーンとした住宅街を真っ昼間に歩いていたりすると、強烈な緊張感と恐怖が味わえます。 悲しいときに悲しい音楽をかけても効果は1+1=2ですが、悲しいときに楽しげな音楽が流れると何倍も悲しさが強調されると言うのは、黒澤明が得意としていた「対位法」と言う演出法です。恐い状況で恐いモノを描くのも恐いけど、恐い訳がない状況で異様な事が起こると(演出が巧くいけばですが)、心底肝が冷える絶対恐怖が味わえるのがホラー演出の凄い所です。 「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」と言う傑作中の傑作ホラーがありますが、続編である「ゾンビ(DAWN OF THE DEAD)」と言う映画では、真っ昼間のショッピングセンターが舞台になっているのに、その日常的風景と恐いわけがない「昼間」と言う状況に、ゾンビがフラフラ無数に居ると言う度肝抜く設定は、異常な恐怖を画面に漲らせていました。 あまりにも怖い「リング」でも、劇場中が恐怖で悲鳴も凍ったあのクライマックスは、真っ昼間なんですよね。まあ、あれはちょっと何かが憑りついているとしか思えない様な恐怖ですがね。 この話も、事ここに到るまでの演出にまるっきり笑いが無いだけに、「人間製造機」とは又異質の異様な恐怖感がページにたぎっている訳です。少なくとも子どもの頃のボクは恐くてぶるぶる震えていましたよ、この不条理極まる昼間の怪異に。 因みにこの話の元ネタと思われる(しずちゃんの観た映画もこれでしょうね)1976年のアメリカ映画で「家(Burnt Offerings)」ってのがあるんですが、これをこの話を読んでからしばらくしてから観たんですが、まるっきり恐くないんですよ。はははは。個人的には「人食いハウス」の元ネタだってのは分かっていたので、期待していたんですが、F氏の凄さばかりが証明されただけの結果でした。 この後、この話はある種想像を絶するようなオチがあるわけですが、これは未読の方もいると思うので是非14巻で確かめていただきたいですね。 この話を、必要以上に無機質で乾いたムードの恐怖で貫いているのが、このショッキングなオチのタメだとすると、F氏も相当のタヌキというか、呆れ返るほどの凄い人です。 とまれ、この話は不条理な恐怖と大爆笑を両立させた、希有なギャグ漫画の一つとして記憶されるべき話だと思いますね。 ホントに最後の最後、最後の1コマまでオチが全く想像つかなかったですからね、アレは。 と言うわけで突然でしたが、恐ドラ号外でした。 ではでは。 |