変ドラ第六回
「ねむれぬ夜に砂男」
てんとう虫版18巻より
今回の話はかなり知名度が低いと思います。
実際地味な話で、コレと言った特徴もなく有名な道具が出てくるわけでもありません。
あらすじとしては、
これだけの話です。
(でも、こう冷静に書いてみると、あらすじだけでも少々おかしいかしら<のび太調)
個人的に登場人物が少なかったり(できればのび太とドラえもんだけとか)、舞台が異様に限定されている(主にのび太の部屋)話が好きなのですが、今回はそれに加えてキーキャラとして登場する「不眠症の男」がすこぶる移植なキャラなのがたまりません。
普通は「のび太を眠らせようとあの手この手」ってのがパターンなのに、何故にわざわざ脇役を一人登場させるのかは、前代未聞のオチのためなのですが……それは置いておくとして。
それでは進めましょう。
先ず今更書くのも何なんですが、ドラえもんのコレ
「ドラえもん」(小学館)てんとう虫コミックス版18巻161ページより
↑嘲りきってます。「プーッ」もいい感じで、モロにのび太の事を嘲笑していて笑えます。まあ、のび太は0.93秒で眠れてしまうわけですからね、笑うなってのが無理な話です。それにしてもここまで小馬鹿にしなくても。開いた左目が丸点になっているのがポイント。
「そんないいかたあるか!」
とさすがののび太も怒りますが、
「もの思いにふけって」
ってのはいささからしくないというか、無理がある。
案の定
「おやすみ」
と、ドラえもんに見放される。
「なんてはくじょうなやつだ!」
って毒づくあたりが、中期ドラに特徴的な二人のドライな雰囲気をあらわしていて結構好きです。(倦怠期?)
それにしても、のび太が夜に何かしようと約束しておきながら、ドラえもんに起こされて「なんでこんな夜中に・・・」云々という、かなりお約束の展開があるだけに、ここのドラえもんの反応は仕返しなのかもしれないですね。
でも
「こんなになやんでいるのに!」
って憤慨するのび太、たいして悩んでないと思うんですが……
どうせ眠れないならと、夜の散歩に出かけるのび太。F氏のいい感じの風景の中を散策します。
筆者は恐がりなので、のび太がよく夜の町をブラブラしたり、寝ないで夜の町を遊び回る描写は結構恐いんですよ。ドラえもんと一緒ならまだしも、のび太は一人でブラブラしにいくでしょ、よく。あれ恐いし危ないと思うんですがね。
で、例の空き地にたどり着き、土管に腰掛けて物思いにふけようとするんですが、この時のコレ
「ドラえもん」(小学館)てんとう虫コミックス版18巻163ページより
↑小学4年生ですよのび太。(初出は小学五年生なので、厳密には5年生なのかな)にしては、かなり高度なこと悩んでますよね。「はたすべき役わりとか・・・」ってのが好きなんですよ。お題目だけ一人前なのに結局空回りするわけですが、問題提起の視点の高さは素晴らしいです。「国際情勢の動き」ってのも実に、らしい。
そこでいよいよ「不眠症の男」(勿論名称なんて無い)の人と出会うわけです。ここで。
そもそも真夜中の空き地で世を憂いている(フリ)ののび太も異常ですが、こんなところに成人男性がぼーっとしていたら完全にアウトですけどね。
その時の後ろ手に握り拳で意見に同調するのび太の、「その気」ブリが実に変でいいんですよ。
「わかるよ、そのつらさ。」
っておじさんに向かって。
目の感じもかなりランランとしていて、なんだか全共闘世代な雰囲気がでていて、その気過ぎますのび太。
でも題目は「眠れない」だけ。
それでドラえもんが唐突に登場。まあご都合的ですが、心配してきたドラえもんに乾杯です。(だったらあんなに嘲んなきゃいいのに)
のび太の分かってる台詞
「いいところへ」
も実にご都合主義と割り切っていて素晴らしい。
ここからドラえもんが「眠らせる」タメの道具をあれこれだすんだけど、これが笑える。
先ず、
「さいみん機」
あまりにもそのまんま過ぎなネーミングと、デザインがしびれるほど笑えるんだけど、加えてこの道具の爆笑さはコレ
「ドラえもん」(小学館)てんとう虫コミックス版18巻164ページより
↑さいみんガス!! ドラえもんの「さいみん音楽も効果をそえるよ」の「よ」っていいですよね。ドラえもんがよく道具の説明を加える時の言い回しなんですけど、「よ」って何だかいいんですよ。その前の「目をはなさないで」って命令調もよくある言い回し。でも「さいみんガス」って凄い。クルクルって擬音も変。
なのに、不眠症の男は一言
「ぜんぜん。」(どはははは)
それにたいして仰天するのび太も変で、こんな道具この時はじめて見たに決まってるのに!
その効力に対して全幅の信頼をよせているんでしょうね。
返す刀で
「ぜんぜん!?」(オウム返し!!)
って。
ドラえもんも吃驚してるし。そんなに凄い道具なのかコレ。
ここのやり取り最高すぎます。
そして、「よおし!」と舌だしてのとっておきが何と
「羊とび式さいみん機」
ネーミング良すぎ。
デザインも木のうろから子羊が囲いを越えて納屋に進むと言う、素晴らしすぎるコンセプト。
羊を数えさせて眠らせるって、この道具横になりながらでは絶対に役に立たない所が凄い。この状況でのみ許させるデザインが最高に笑える。
「これならうまくいきそうだ」
と得意満面の笑みを浮かべるドラえもんと腕組んで微笑むのび太も抜群に変ドラ世界へ突入。
で、コレ
「ドラえもん」(小学館)てんとう虫コミックス版18巻165ページより
↑13563!数えすぎ。万桁まで数えちゃってます。三桁の飛んでる羊がもうなんていうんでしょう、バックのベタと相まって腹の変なところで笑えるというか。あの数字って一回一秒としても3時間近く数えてますよこの人たち。あのドラえもんのとぼけきった顔と「3」口がキてます。二人とも後ろで腕組んじゃってますし。
それでも更に目がさえてしまった「不眠症の男」に、ドラえもんがいよいよ最終兵器として取り出すのがコレ。
「ドラえもん」(小学館)てんとう虫コミックス版18巻166ページより
↑わはははははは。この顔! ばかでかい袋もセンス抜群。「さいみん機」ってちゃんと付いてる道具名にこだわりがあり過ぎて大好き。それにしても「砂男式」の「式」って何だよ。ネーミングのまんま過ぎる道具を取り出して「これはどうだ!」ってドラえもんの台詞もまた格別。
「死んだ人さえねむらせる」(うお!最高!)と言う「強力さいみん砂」をかけてくれる道具なんですが、説明するときの真顔のドラと、その横で腰に手をあてて「それはすばらしいねえ」と言わんばかりの自信ありげなのび太も相変わらず「その気節」炸裂していて面白い。
段々変な気分になってきたでしょ? クスクスって感じの妙な笑いのさじ加減。
「それいけ!!」と言う調子のいいドラえもんの合図で、砂を実際にぶっかける「砂男式さいみん機」なんですが、なんとコレも
「ぜえんぜん。」(面白すぎ)
効かない!
「ドラえもん」(小学館)てんとう虫コミックス版18巻166ページより
↑吹き出しとげとげ過ぎ。「あるはずがない!!」と!が二つもある、F氏にしては強調しすぎのネーム。「こ、こんな」ってのも驚きすぎだろドラえもん。「はずがない!!」とまで言う。そりゃ「死んだ人さえねむらせる」(ホントに何なんだよソレ)さいみん砂をモノともしない「不眠症の男」に読者も仰天。ドラの顔のコマ切り加減が、絶妙に吃驚感があって素晴らしい。
でもコレはないでしょ。
「ドラえもん」(小学館)てんとう虫コミックス版18巻166ページより
↑もっともっと!!! わははははは。量の問題らしいです。意地になるドラえもんが変。
もっともっと! かけられまくった「不眠症の男」は生き埋めになりかかるというハードな展開の末に、急転直下のオチが訪れる。
介護の人(?)が突然現れて、実は彼が
「ねむれなくて困っているゆめをみながら」
歩き回っている夢遊病患者だったという度肝抜くオチ!
驚天動地!!
子供の頃にホントに膝を打ちましたモン。
そりゃあ効かないよって。ははははは。
前にも書きましたが、F氏は落語好き。コレもそれ系の話として完成されていますよね。
でも、ここで取り上げたような「道具のシュールさ」と言えばいいのか何なのか、子供の頃に感じて、読み直してもなお形容し難いお笑い感覚が宿っている逸品と言えると思うんですよね。
他の話にはあんまりこの手のムードの話がないだけに、この話は通常のドタバタと全然違って、ネタ的にもどう笑って良いのか読んでる方のポジショニングが変というか。
今回取り上げながらも、執筆途中まで「コレ面白いのか?」って半笑い状態だったのですが、いやいやヤッパリ流石F氏ですね。その半笑い感覚がボクとしてかなりのヒットでした。
読み直すとホント変という、この変ドラのコンセプト通りの逸品ですなコレは。
ではでは。