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ドラえもんをはじめとする藤子・F・不二雄作品の少し変な魅力をたっぷりとお届けします。

【帰ってきた変ドラ】~12巻すべて見せます!~『ドンブラ粉』F先生のセンス・オブ・ワンダーが炸裂した名作中の名作を堪能しよう!

time 2017/03/21

【帰ってきた変ドラ】~12巻すべて見せます!~『ドンブラ粉』F先生のセンス・オブ・ワンダーが炸裂した名作中の名作を堪能しよう!

変ドラ第12回、その3

「ドンブラ粉」

初出~小学四年生1976年7月号~

 

子どもの頃、一人でしょっちゅう「ごっこ遊び」をしていました。

代表的な物は

「雪山で遭難ごっこ」

~冬の寒い日に窓を開け放して布団をテントに見立てて遭難する遊び。大抵一緒に連れてきたセントバーナード犬と死に別れる(愛犬ポチが演じる。柴犬だったけど)

「炭坑に閉じこめられたごっこ」

~押入の布団の中に懐中電灯と食料(お菓子とかハム)を持ち込んで、落盤した炭坑に見立てて脱出行をする遊び。大抵途中で地下世界に辿り着いて化け物に襲われる(ポチだけど)

「切り立った崖に吹雪でビバークするごっこ」

~タタミの一つをアイガーの北壁に見立てて、その僅かなスペースで吹雪をしのぐ遊び。

「いかだごっこ」

~布団をいかだに見立てて、太平洋に投げ出さる。掛け布団をテントにして暴風圏を突破したり、鮫に襲われたりする遊び(サメはポチ)

などなど、今思い返してみると、驚くほどドラえもんの中にある「部屋モノ」に似ていることに驚かされます。

前回の「勉強べやの釣り堀」が、【居ながら系カテゴリー】になるごっこ遊びの一形態だとするなら、今回の「ドンブラ粉」は上のごっこ遊びの例に倣うと

「見立て」

の極めつけと言えるでしょう。「実感帽」除く……アレはヤバ過ぎ)

この道具のイマジネーションの豊かさは古今東西見渡しても他に類を見ない斬新性を持っていると、子どもの頃から今でも自信を持って断言できます。

ネーミングのダジャレ感も加えて極めて高クオリティーな世界。

話はこれまた簡単。

泳げないのび太は、ワザと泳ぎに誘いに来るスネ夫たちに閉口する。ドラえもんの「練習すれば」に対しても「どこでよ」と反論するので……

と言う感じ。

ここでものび太の持ち味の一つである宣言が堪能できます。

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑握り拳&腰に手に加えて、瞑った目と眉がいいですねえ。更に異様に胸を張っているのも何時にない決意を感じます。「くだらないよ」と、負け惜しみにしては立派な感じがしますね。

実はここで面白いのは、後ろの「3」口ドラの表情が次のコマへ繋がる際の変な間なんです。それがコレ

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑こののび太ムッツリ繋ぎパターンは第三回「わらってくらそう」でも登場しました。ドラえもんが道具を用意するだろう間を微妙に計算に入れたのび太のムッツリ継続って変でいいですな。またドラえもんもドラえもんで全然感情ゼロなのも笑えます。

しかも英語の商品名(DONBURA POWDERってw)が銘記しているのが何だか規格外品っぽいですよねえ、ドンブラ粉って。

そしてその道具の効果が、釣り堀と同様の「漫画的魅力」に満ち溢れたイマジネーションですよね。

それすなわちコレ

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑擬音がしびれます。その前のズブズブってのも結構恐い感じがあると共に、全体的に水と言うよりも泥って感じがするのも、無意識に魅力的ですよね。この泥遊び感覚が、ドンブラ粉の魅力だと思います。完全に水じゃだめなんですよ。いやあ、いきなりタタミに身体がドンブラコってなったらのび太どころのパニックじゃすまないような…

しかし、コレ底なしだと思うんですけどね。ドラえもんご満悦なのが何か恐いですよ。

部屋で水泳特訓では、やはり印象深い「ルームスイマー」水のかたまりがありますが、それと較べると、こちらが「見立て」の面白さに満ちているのが分かります。(あっちは疲れて正座したいってのがやたらとリアルですが)

この道具って未来の子どもたちがどこでも水遊びが出来るように考案されているとしか思えないのが凄いです。技術が有れば絶対に売れますよコレ。恐いけど。

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑しっかし、部屋の中で浮き輪に座ってるのび太の画面、シュール極まりますねえ。まあ、ボクも浮き輪は実際にプールなどで使うよりも例のごっこ遊びの時ばっかり重宝していたぐらいなので、似たようなモノなんですが。

「およぎかた」

と言う直球のガイドを読むのび太もポイント高し。

実はボクもかなづちなのでのび太の気持ちは痛いほど分かるのですが、この時のドラえもんのスパルタ特訓で言っていることが理解できないんですよね。

「ひざをまげないように」とか

「大きく水をかく」とか

「しりがういてる」とか

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑とはいえ、「こんじょうが足りないぞ!!」は反則でしょ?

根性論はルール違反だよドラ。泳ぎに関係ないッス。

ここも突然バット持ち出してますからねえ。逆らえませんよ。

椅子に座って監視するドラえもんときたら目は上の空で、盲目的スパルタ野郎で恐いです。

でも勉強べやでジャブジャブ泳ぐのび太はホント笑えますし、こたえられない画的魅力がありますね。

そんな画的魅力が後半大爆発するのがこのドンブラ粉の魅力です。

先ずはコマ割りを効果的に使ったコレ

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑釣り堀と違って、こっちは現実の空間=物質をドンブラ化しているのが魅力ですよね。床突き抜けて天井から顔を出すこのコマに子どもの頃からしびれてます。巧妙にタテのコマ割を使っての移動感を表現している点も素晴らしい。

F氏ってこういう道具を思いついたときに、思いつくあらゆる行動をのび太がちゃんとやってくれるから気持ちいいんです。

コレもカッコイイ&笑える。

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑ダイナミックですよねえ。天井から一気に一階の床への飛び込み。ここにお客のおばさんが居るのがもう最高。吹き出しのパニック描写も合わせて表情が凄い。まあ、いきなりコレに遭遇したらしょんべんちびるでしょうけどね。

そして次のコレがこのドンブラ粉の画的魅力の頂点。

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑こういう硬質な物質(床とかタタミ)が流体物質みたいに表現されるってのは、どういう魅力なんでしょうね。のび太の航跡がホントしびれるほど好きなんですよコレ。それにしても全然気が付かないママと驚愕しているおばさんの対比など、計算され尽くしたギャグ構図ですね。擬音もセリフも一切ないあたりがF先生の天才性爆発。

こういったナンセンスの極めつけもドラえもんやひいてはF先生のギャグ漫画の大きな魅力の一つですけど、こういうモノの多くはトムとジェリーやテックス・エイブリー(俗に言う「まん中の話」)の一連のナンセンスギャグの影響なのかもしれないです。が、やっぱりこんなドンブラ粉の様な「見立て」ギャグは他に類を見ないですね。ピラミッドの頂上って感じ。

加えて油断無く、F氏の狂気スピリットはここでも爆発。

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑これがないと嘘ですよね。ははははは。おばさんの頭上にあるグルグルがもう完全に狂気。パタパタってのも相当です。ドラえもんの存在が身近になっているジャイアンたちと違って、大人達はちゃんと現実的な対処をするのも案外作品世界のルールがしっかりしていますよね(曖昧になるときもあるけど)。

ここから、いわゆる

のび太暴走状態

になるので、ボクとしてはたまらない。

やっぱり主人公は孤高の存在ですな。ドラえもんという枷すら無くなったのび太は笑わせてくれます。

と言っても、この作品はとにかくこの道具の特性を生かした画的な魅力が強いですね。

コレとか。

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑案外泳ぎが巧くなっているのもポイントですね。息継ぎしてますよ。それにしても周りの波がどうなっているのかが気になって仕方がない。

更にお約束も忘れずにコレ

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑ここでもタイルがドンブラ化しているんですが、この後の二人揃ってザブンと潜るのも効果的です。それにしてものび太って本能的にしずちゃんの風呂に来ますよね。

そして、一番画的に好きなのがコレ

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑ポイントは何と言っても「草」雑草の周りに拡がる波紋。このドンブラ感というか、非現実感の中の現実感がこの話の最大の魅力。

ここの野球シーンは意外にジャイアンの暴君ぶりが凝縮されていて楽しめるのもポイント。

「スネ夫うたないとひどいぞ(笑顔で)

これに自信満々に

「まあみてな」(結局ヒットだけど)

って返すスネ夫に、ジャイアンの横暴が日常化している(馴れている)感覚が出ていて、密かに不幸だよなあ。

他にも、バットでスネ夫を殴るのはお約束として、守備になるや

「エラーなんかしたやつは、ころしてやるから。」

と来る。独裁者はコレだからイカンですなあ。にしても、「ころす」はF先生の作品群ではやたらと使われるフレーズですよね。現在では極めて危険。

そこでのび太はジャイアンのプレイを邪魔した挙げ句に、

「ジャイアンのへたくそ。」

(笑顔)で火種発言。

襲いかかるジャイアンに対して、スネ夫は長いつきあいなので、止めようとしているが、周りの連中ときたら売り言葉に買い言葉で

「いばってる。」

だなんて言ってしまう。そうなったら大乱戦。

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑シルエットで大げんかしているジャイアンたちを後目にドンブラと去っていくのび太が無責任極まる悪党イメージで笑える(勿論笑顔)。「かえろう。」というセリフもクール。

よく見るとシルエットで一人空中に吹っ飛ばされてたりして凄いモノがあるけど、そこでオチが訪れる。

冴えに冴えるトンチオチであるこの理屈が素晴らしい。

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑わはははは。「と、いってもここが陸だ。」が最高。さすが独白独演、自問自答はお手の物なのび太ですから、+目も合わせてどうしようもない感覚。

そして、ある種トラウマ系のこの壮絶極まるオチのコマ

 『ドラえもん』てんとう虫コミックス12巻(小学館)より引用

↑こりゃあ悪夢そのもの。絶対に死んでます。何てのこれ。溺死? 生き埋め? 最悪のオチですねえコリャ。助けるのが大変ってな事態じゃない画がやり過ぎで笑えます。眼球真っ白ですからねえのび太。

恐らく、コレのせいでまた泳げなくなったんじゃないですかね、のび太。

典型的な調子に乗って酷い目に遭うのび太のパターンなんですが、いっつも思うのが、これがコンクリートで舗装された道路だったら…とか、最初のタタミだったら…とか、考え出すと「う、う、うわあああ!!」と発狂しそうになるような状況です。

まったくよけいなトラウマを多く産むのもドラえもんの特徴ですね。

何にしても何度も読み返したり、一番印象深いと言う意味で個人的に最もドラえもんと言っていい話です。やっぱり面白いですよ。

余談ですがドンブラ(どんぶら)系の話は結構あるんですが、一番最初のドンブラネタである「ドンブラクリーム」(小学二年生1974年8月号掲載)が読みたい今日この頃です。

ではでは。

【追記】

「ドンブラ粉」は本文でも書いていますが、恐らくもっとも大好きなドラえもんの道具&エピソードの1つです。理由はもちろんF先生のセンス・オブ・ワンダーが炸裂しているからですね。あのシンプルでありながら、リアリティ満点の「漫画演出」を用いた、「ふしぎ」な道具の描写力がとにかく猛烈に好きなのです。そして、やはり「ごっこ遊び」が大好きだった人間としては、是が非でもほしい道具の一つでしたね。

それにしても、「ドンブラ粉」というネーミングセンスですよねえ。もう脱帽としかいいようがない。

 

ちなみに、てんとう虫コミックス未収録の「ドンブラクリーム」も現在は藤子・F・大全集にて読むことが出来ます。いい時代になったものです。

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書いた人

ビューティー・デヴァイセス(元ミラー貝入)

映画や漫画やゲームが大好きです。 [詳細]